社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
『校閲至極』――驚くべき校閲記者の仕事とことばの奥深さ
『校閲至極』は、「サンデー毎日」での人気連載コラム「校閲至極」の5年間におよぶ244回の連載の中から、74編を厳選して書籍化した一冊です。
本書の最大の魅力は、執筆者にあります。なんと、記者や作家といったいわゆる文筆家ではなく、毎日新聞校閲センターで校閲を携わっている、21人の校閲記者が執筆者です。本来なら記事やコラムを書くことのない校閲記者が、「校閲」の視点にたって執筆している点が、本書の読み所といえます。
校閲記者は、新聞記者のように書くことを専門とした記者ではありません。しかし、新聞の紙面に印刷される、記事・論説・コラムといった多様な原稿を深く読み込み、日本語として正しい使い方をしているか、事実誤認や不備はないか、不適切な表現になっていないかなどを確認・調査・検討したうえで、必要に応じて文章を訂正したり校正したりします。
つまり、校閲記者は執筆者とは違った「ことばのプロ」であり、「新聞社の門番」ともいえる存在です。
皆さんは河野悦子がどんな校閲スルーをしたかに気づいたでしょうか。正しくは「鍾乳洞」で、金偏に対する旁(つくり)が「童」でではなく「重」です。
また、「高校野球の記事、三つの『アウト』」では、「檄を飛ばす」「喝を入れる」「吹奏学部」を、アウトとして取り上げています。
スリーアウトの概要は、(ワンアウト)「激励」の意味で「檄を飛ばす」を使うことを望ましくないとして「奮起を促す」などへ書き換える、(ツーアウト)「喝を入れる」は「活を入れる」が正しい表記であるため「選手を鼓舞した」などとする、(スリーアウト)「吹奏学部」は「吹奏楽部」の誤り――です。
他にも、記事中の本文と写真を校閲して「芸舞妓たち」の表記を「舞妓たち」に訂正したり、「冷凍カツは約60万枚で約730トン」の表記を計算のうえ常識と突き合わせて「73トン」の誤りだったことを明らかにし訂正したりするなど、校閲の対象は文字だけにとどまりません。
本書に収められた74編のコラムのテーマや内容は、新聞記事の校閲記者の日々の具体的な業務内容にふさわしく、多分野かつ多層的です。しかし、どれだけ異なる分野やテーマを扱っていても、真摯かつ丁寧にことばと向き合う姿勢が根底にあるため、どの1編からもことばや文章と向き合う際の普遍性を感じられるのです。
ということで、『校閲至極』は、校閲に関心がある人はもちろんのこと、直接校閲に興味はなくともことばや文章に関することに興味や関心がある人であれば、きっと楽しんでいただける一冊だと思います。しかも、読者一人ひとりに応じた、新たなことばとの出会い、発見のきっかけとなること必至です。
本書の最大の魅力は、執筆者にあります。なんと、記者や作家といったいわゆる文筆家ではなく、毎日新聞校閲センターで校閲を携わっている、21人の校閲記者が執筆者です。本来なら記事やコラムを書くことのない校閲記者が、「校閲」の視点にたって執筆している点が、本書の読み所といえます。
「新聞社の門番」毎日新聞校閲センターの校閲記者
毎日新聞校閲センターは、2023年現在、東京本社に東京グループ、大阪本社に大阪グループと分かれています。ルーキーからベテランまでの数十人のバラエティに富んだ校閲記者が在籍し、原則として広告などを除く全紙面の新聞校閲作業を、日々分担して行っています。校閲記者は、新聞記者のように書くことを専門とした記者ではありません。しかし、新聞の紙面に印刷される、記事・論説・コラムといった多様な原稿を深く読み込み、日本語として正しい使い方をしているか、事実誤認や不備はないか、不適切な表現になっていないかなどを確認・調査・検討したうえで、必要に応じて文章を訂正したり校正したりします。
つまり、校閲記者は執筆者とは違った「ことばのプロ」であり、「新聞社の門番」ともいえる存在です。
校閲スルーを校閲する校閲記者
本書は、「校閲」ということばを一般に広めた功労者ともいえる、2016年秋に日本テレビ系で放映されたドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」の主人公・河野悦子が、2017年のスペシャルドラマで「鐘乳洞」をスルーしたことを校閲する「『校閲ガール』河野悦子よ、なぜスルー」コラムから始まります。皆さんは河野悦子がどんな校閲スルーをしたかに気づいたでしょうか。正しくは「鍾乳洞」で、金偏に対する旁(つくり)が「童」でではなく「重」です。
また、「高校野球の記事、三つの『アウト』」では、「檄を飛ばす」「喝を入れる」「吹奏学部」を、アウトとして取り上げています。
スリーアウトの概要は、(ワンアウト)「激励」の意味で「檄を飛ばす」を使うことを望ましくないとして「奮起を促す」などへ書き換える、(ツーアウト)「喝を入れる」は「活を入れる」が正しい表記であるため「選手を鼓舞した」などとする、(スリーアウト)「吹奏学部」は「吹奏楽部」の誤り――です。
校閲の対象は無限、普遍性へとつながる「ことばと向き合う仕事」
さらに校閲記者たちは、例えば品川駅(東京都港区)、厚木駅(神奈川県海老名市)、四条畷駅(大阪市大東市)などのように、駅名に自治体名を使っていても所在地がその駅名と異なる自治体になっている駅などのねじれを確認し、「ハロウィーン」か「ハロウィン」かで表記が分かれる外来語の表記を統一し(ちなみに、外来語の表記の原則は、すでに定着した表記でなければ、なるべく原音に近いカタカナで書く)、固有名詞に細心の注意を払いながらあらゆる原典や参照資料にあたります。他にも、記事中の本文と写真を校閲して「芸舞妓たち」の表記を「舞妓たち」に訂正したり、「冷凍カツは約60万枚で約730トン」の表記を計算のうえ常識と突き合わせて「73トン」の誤りだったことを明らかにし訂正したりするなど、校閲の対象は文字だけにとどまりません。
本書に収められた74編のコラムのテーマや内容は、新聞記事の校閲記者の日々の具体的な業務内容にふさわしく、多分野かつ多層的です。しかし、どれだけ異なる分野やテーマを扱っていても、真摯かつ丁寧にことばと向き合う姿勢が根底にあるため、どの1編からもことばや文章と向き合う際の普遍性を感じられるのです。
ということで、『校閲至極』は、校閲に関心がある人はもちろんのこと、直接校閲に興味はなくともことばや文章に関することに興味や関心がある人であれば、きっと楽しんでいただける一冊だと思います。しかも、読者一人ひとりに応じた、新たなことばとの出会い、発見のきっかけとなること必至です。
<参考文献>
『校閲至極』(毎日新聞校閲センター著、毎日新聞出版)
https://mainichibooks.com/books/essay/post-635.html
<参考サイト>
「毎日ことばplus」(毎日新聞校閲センターが運営するサイト)
https://salon.mainichi-kotoba.jp/
毎日新聞校閲センターのツイッター(現X)
https://twitter.com/mainichi_kotoba?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
『校閲至極』(毎日新聞校閲センター著、毎日新聞出版)
https://mainichibooks.com/books/essay/post-635.html
<参考サイト>
「毎日ことばplus」(毎日新聞校閲センターが運営するサイト)
https://salon.mainichi-kotoba.jp/
毎日新聞校閲センターのツイッター(現X)
https://twitter.com/mainichi_kotoba?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
超深刻化する労働力不足、解消する方策はあるのか
教養としての「人口減少問題と社会保障」(6)労働力の絶対的不足という問題
人口減少によって深刻となる問題の2つ目が「労働力不足」である。今盛んにいわれている女性活用、高齢者活用、外国人労働者受け入れは、労働力の絶対的不足を解消する有効な方法となり得るのか。これからの労働力不足の問題と方...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/12/03
遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性
『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原
『江戸名所図会』を手がかりに江戸時代の人々の暮らしぶりをひもとく本シリーズ。今回は、遊郭として名高い吉原を取り上げる。遊女の過酷さがクローズアップされがちな吉原だが、江戸時代の吉原には違う一面もあったようだ。政...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/18
東京大学が掲げる「自律的な大学運営」に重要な3つの視点
大学教育の未来~対話・デザイン・多様性(1)対話と自律の大学運営
東京大学が掲げる「多様性の海へ:対話が創造する未来」というスローガンは、日本の大学の新しい運営のあり方を見据えた指針である。多様な知を社会で共有するための対話の重要性や、大学の自律的な経営を可能にする新たな経営...
収録日:2024/06/26
追加日:2024/12/02
なぜ「心の病」が増えている?メンタルヘルスの実態に迫る
メンタルヘルスの現在地とこれから(1)「心を病む」とはどういうことか
組織のリーダーにとって、メンバーのメンタルヘルスは今や最重要課題になっている。組織として目標達成が大事であることは間違いないが、同時に一人ひとりの個性を見極め、適材適所で割り振っていく「合理的配慮」も求められて...
収録日:2024/04/17
追加日:2024/06/15
松下幸之助の答えは「人間の把握」と「宇宙の理法」の2つ
東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(2)陰陽論の重要性
老荘思想の根幹には陰陽論がある。この世はつねに「陰陽」の2つのものが相まって形成・維持されているというものだ。この講義では、この陰陽論への理解をより深め、「乾坤」さらには「道徳」の概念を解説し、松下幸之助が「2つ...
収録日:2024/09/19
追加日:2024/11/28