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DATE/ 2024.08.09

下瀬美術館が「世界で最も美しい美術館」に選出

 広島県大竹市にある下瀬美術館が、2024年世界的な建築賞「ベルサイユ賞(Prix Versailles)」における「世界で最も美しい美術館」として選出され、大きな話題となっています。

 ベルサイユ賞とは、そして下瀬美術館とはいったいどのような場所なのでしょうか。

ユネスコが創設した建築賞「ベルサイユ賞」

 ベルサイユ賞は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)本部が“Architecture and intelligent sustainability(建築と知的持続可能性)”の観点から2015年に創設された、世界最高峰の建築賞です。

 対象となるのは世界の空港、キャンパス、スポーツ施設、ホテル、レストランなどで、部門ごとに著名な建築家や識者たちによってリストアップされ「世界で最も美しい」一流建築を褒賞します。

 2024年の今回はベルサイユ賞創設10周年を記念し、新たに「美術館・博物館」部門が設けられ、7つの美術館が選出されました。下瀬美術館は、そのうちのひとつに選ばれたのです。

下瀬美術館とは

 2014年「世界で最も美しい美術館」としてリスト入りされた下瀬美術館は、2023年3月に広島県大竹市にてオープンした美術館です。広島の大手建築部品メーカー・丸井産業株式会社の創業60周年を記念し、代表取締役の下瀬ゆみ子氏が、両親である先代の下瀬福衛氏と静子氏が収集したコレクションを保存・展示し、日本の文化発展に寄与することを目的に創設されました。

 七世大木平藏や四谷シモンといった日本を代表する人形作家の作品や、エミール・ガレのガラス工芸、ピサロやマティス、シャガールや東山魁夷といった近代画家の絵画など、国内外を含む貴重なコレクション約500点が所蔵されています。

 特にエミール・ガレの作品は60点以上にも及び、館内にはガレの作品にちなむ草花を集めた「エミール・ガレの庭」と呼ばれる庭園があり、見どころのひとつなっています。

世界に称賛された下瀬美術館の建築美

 下瀬美術館はその貴重な所蔵品はもちろん、最も特筆すべきなのが今回のベルサイユ賞でも讃えられた美術館の設計と外観です。

 美術館を構成するエントランス棟、企画展示棟、管理棟の3棟の外壁にはすべて巨大なミラーガラス・スクリーンが施されています。内側はガラス張りのように透明ですが、外側は鏡のようになっているため、外壁に瀬戸内海の風景が映り込み、まるで美術館がまるごと風景の中に溶けこんでいるかのような一体感と壮大な世界観を生み出します。

 中でも目を惹くのが、瀬戸内海の島々をイメージしたという水の上に浮かぶ8つのキューブ型の展示棟群です。ブルーやグリーン、オレンジとカラフルでポップな外観が印象的で、しかもこれらすべてが水の浮力で動く「可動式」。必要な時に配置を入れ替えることができるという、世界初の展示室となっています。

 設計者は2014年に「建築界のノーベル賞」といわれるプリツカー賞を受賞し、世界的建築家として活躍中の坂茂(ばん・しげる)氏。当美術館は「アートの中でアートを観る。」というコンセプトのもと建造されました。

 前衛的でありながらも瀬戸内の美しい風景と見事に調和した設計は「コンセプトの壮大な野心にもかかわらず、訪問者は心地よい規模の天蓋で迎えられる(国際ベルサイユ賞機構)」などと称賛され、下瀬美術館は坂氏の代表作かつ日本が世界に誇る建築物となったのです。

「世界で最も美しい美術館」として脚光を浴びた下瀬美術館。広島の新たな観光スポットとして、今後ますます注目されそうですね。

<参考サイト>
・ベルサイユ賞公式HP
https://www.prix-versailles.com
・下瀬美術館
https://simose-museum.jp
・丸井産業株式会社
https://www.marui-sangyo.jp
https://www.marui-sangyo.jp/museum/
・2024年「世界で最も美しい美術館」に広島・下瀬美術館が選出。ユネスコで創設された建築賞「ベルサイユ賞」7施設のリストが発表(Art Beat News)
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/prix-versailles-shimose-museum-202406
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