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DATE/ 2016.06.20

昭和の象徴「デパートの大食堂」はなぜ消えた?

象も登場!デパートがぜいたくの象徴だったあの頃

 昭和文化・レジャーの象徴だったデパート。戦後の経済復興をとげて豊かになってきた1960年代から80年代にかけて、デパートはぜいたくな気分を味わえる憧れの場所でした。

 休日は、家族そろってよそ行きの服でおめかしをしてデパートにお出かけ。最新のファッションやインテリア、きらびやかな宝飾類、魔法の国のようなおもちゃ売り場、最上階から風景をみわたせる大食堂、屋上の遊園地……。たとえ買い物をしなくても、デパートをめぐるだけで幸せな気持ちにひたれたものです。

 デパートがエンターテインメントの中心であったことをうかがわれるエピソードがあります。1950年、高島屋の日本橋店屋上に象の「高子ちゃん」が登場したときのこと。「高子ちゃん」が屋上までクレーンでつり上げられたことで話題を呼び、公開初日に訪れたのはおよそ17万人だったそうです。

「お子様ランチ」は1930年代に誕生

 そんな日常をはなれたワクワク感を子どもたちに与えてくれたのが、最上階に多かった大食堂です。おおきなチョコレートパフェ、アイスの乗ったエメラルドグリーンのクリームソーダ、そしてなんといっても「お子様ランチ」。オムライス、ハンバーグ、海老フライ、ケチャップ味のスパゲッティなどがひとつのプレートに乗ったお子様ランチは、上野松坂屋が戦前の1931年に提供したのが始まり。ご飯に旗を立てた形が登場したのは、翌1932年のことでした。

 なお、日本橋三越では、上野松坂屋よりも早い1930年に「御子様洋食」という名前で同じスタイルのものを提供しています。これらが原型となったお子様ランチは、今も人気のメニューとして生き続けています。

今はショッピングモールとフードコートが役割を果たしている

 そんなデパートも1990年代に入ると、ファッションやカルチャーを強く打ち出した若者向けの形態と、中高齢者をメインターゲットにした落ち着きのある形態に分かれていきます。レジャーの多様化と、昭和中期につくられた街並や大型施設の再開発が進んだこともあり、休日のデパートから家族連れの姿が徐々に消えていきました。

 今では大型駐車場を備えたショッピングモールや、そこにあるフードコートがデパートと大食堂の役割を一部、果たしているともいえます。

老舗デパート・マルカン百貨店は閉店したが…

 今、昔ながらのデパートの大食堂は残っているのでしょうか。

 昭和文化を懐かしむ人々から「あの頃の雰囲気のままだ」と絶賛されていたのは、岩手県花巻市にある老舗デパート・マルカン百貨店の6階にあった大食堂です。名物の10段巻のソフトクリームが有名な昭和モダン&レトロの雰囲気を残した“名店”でした。

 ところが、建物の老朽化と耐震性の問題から、2016年の6月7日をもって、マルカン百貨店は閉店。地元では継続を求める声もたくさん起こったようですが、惜しまれつつ老舗デパートとしての歴史に幕を閉じることとなりました。

 しかしその後、マルカン百貨店の運営を引き継ぎたいという地元企業が現れ、クラウドファンディングや寄付などで建物の改修にかかる資金の問題を解消、2017年2月20日にマルカン百貨店の大食堂は「マルカンビル大食堂」として復活を遂げています。

 昭和は遠くなりにけり、といった感がありますが、家族の絆を深めてくれたデパートの大食堂にはファンが多いだけに、新しい時代の姿で復権してほしいと願うばかりです。
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授