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DATE/ 2014.11.11

進路決定は28歳でも遅くない!

 人生は「イエスか、ノーか」「右か左か」と、細かい決断(優柔不断?)の連続だ。早い話が、昼食に何を食べるか一つもなかなかおいそれとは決まらない。であるのに、そんな自分の活動基盤をつくる進学や就職など、大きな選択を迫られる場面はあまりにも早くやってくる。

 「日本ではだいたい18歳で自分の進路を決めます。でも、私が自分の本当の進路を決めたのは、ⅱ8歳のときでした」と語るのは、「くまモン」で全国を魅了する熊本県知事・蒲島郁夫氏だ。9人兄弟の7番目に生まれ、小学校2年生から高校3年生まで1日も休まず新聞配達をして家計を助けた蒲島氏は、学校の勉強には縁遠く、夢だけは大きな少年として育つ。

 高校卒業後、地元の農協を経て20歳で農業研修生として渡米。これが転機となって学問の道へ。勉強した経験がないので最初は苦労したものの、言葉もわからず年中無休でこき使われるネブラスカの農場労働と比べると、よっぽど楽であったらしい。しかし、この頃の夢は「牧場主になりたい」。専攻は繁殖生理学だった。

 大学卒業を目前に、蒲島氏は指導教授から研究室に残らないかと誘いを受ける。「本当に学びたいのは何だろう」と考えたときに浮かんだのは農業ではなく、小さい頃に夢見た「政治家」の世界だった。学問を極めるのなら、世界一の場所で政治学を学びたい。ハーバード大学の政治経済学大学院へ願書を出すには、このような曲折があった。

 「それでも、人生は長いので間に合います。夢があることが大事なのだ、と私は思います」と蒲島氏は確信している。とはいうものの、当時28歳の氏には学生結婚した妻と二人の幼子の存在があった。ハーバードの奨学金が研究生活を支えるとはいえ、給付期間は4年間。通常6年かかる博士課程を3年9カ月で修了したのは、優秀だったからではなく「子どもを飢えさせられない」というプレッシャーにだったと蒲島氏。おかげで「ある時期、自分自身に莫大なプレッシャーを与えることによって、物事は達成できる」と、新たな確信も生まれた。

 28歳をとうに越えてしまった読者は、複雑な思いかもしれないが、蒲島氏の大きな転身はその後60代でもやって来る。東大法学部教授から熊本県知事選への出馬だ。ただし、こちらはそれまでの学問的蓄積を実践として世に問う進路変更。決して「果報は寝て待て」のゼロ・スタートではないので、お間違えなきよう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授