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アンドロイドは進化の果てに「心」を持つのか?
近年、「アンドロイド」が急速に進歩している
ここ数年、ぱっと見では人間と見分けがつかないほどリアルな人間酷似型ロボット「アンドロイド」の研究が進んでいます。テレビ番組で話題になったマツコデラックスさんそっくりなアンドロイドの「マツコロイド」が有名で、これ以外にもイベントやデパートの受付嬢をかなり美形の女性型アンドロイドが務めたりしており、テレビや街中で一度は目にしたことがあるかもしれません。このように最近脚光を浴びている「アンドロイド」ですが、「人型のロボット」という括りで捉えると、意外なほどに歴史は長く、18~19世紀にはスイスで「オートマタ」と呼ばれる文章を書く人型ロボットが生まれました。日本では、17世紀ごろにからくり人形が生まれましたが、こちらはあくまでも「人形」でした。この頃のロボットは決まったことを単調に繰り返すのみで、動作に複雑さはありません。一応、「人型」ではありましたが、当時はやがてロボットが「心」を持つようになるとは、誰も考えなかったでしょう。
では、なぜ最近になって「アンドロイド」は増えているのでしょうか?
超リアルなアンドロイドが増えている理由とは?
ロボット研究の専門家である大阪大学大学院基礎工学研究科教授の石黒浩氏は著書「人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか」の中でこのように語っています。“人間の脳は、人間を認識し、人間と関わるようにできている。ゆえに、人間が使いやすい製品を作ろうと思えば、必然的に人間らしい機能を与える必要がある”
これまでのロボットの研究は、工場などで働く産業用のロボットなどを中心に行われてきました。しかし、近年は、人間の生活の場で働く「日常活動型ロボット」に研究の関心が移ってきています。このため、「人間と関わりながら活動する」という目標を達成するために「人型」のロボットであるリアルな「アンドロイド」が増えてきているのです。
そもそも「心」とは何か?
タイトルの「アンドロイドは心を持つのか?」という問いに答えを出すには、そもそも「心」という言葉の定義が必要です。私たちは日常の中で「心」という言葉を使います。例えば、「心の豊かな人」とか「心を入れ替える」とか、よく使いますね。しかしながら、「心」の意味について、ぱっと説明できないという人も意外と多いと思います。石黒氏は、「人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか」の中で、「心」についてこう語っています。
“他人を見ていると、その人に「心」があるように見える。でも、自分自身に「心」があるかどうかは実際のところ、よくわからない。わからないものをそう名付けているだけで、「心」というのが何なのかは、誰にもわかっていない。僕は自分の中に「心」が物質的に存在すると実感したことはないし、はっきりと実感を持っている人は本当はいないのではないかとも思っている。
しかし、定義がわからないままでも物理的な存在として見たことがなくても、人間は相手に「心」を感じられる。そこに社会性を伴って存在することで、人間はそれらを、「心を持ったもの」とみなす。だから「心」とは社会的な相互作用に宿る主観的現象なのかもしれない、と僕は考えるのである。”
アンドロイドが「心」を持つために必要なこと
心が主観的現象で、本人以外が心の有無を判断するのだとしたら、「アンドロイド」が十分な知覚能力を持ち、人間と自然な対話ができれば、「心」を持っていると判断できるかもしれません。「自然な対話」というところがポイントで、ただ単に対話ができても、必ず同じ問いに対して同じ答えしか返ってこないのだとしたら、人間は作られたプログラムであることを意識して「心がある」とは判断しないでしょう。劇作家で演出家の平田オリザ氏と石黒氏で制作した「アンドロイド演劇」でも、とても興味深い結果が得られています。現時点でのアンドロイドでも、人間とアンドロイドが演じる演劇を観客側の立場として見るだけ、つまり一方通行のコミュニケーションで、観察する側がアンドロイドと直接対話をしない限定的な状況であれば、観客のほとんどがアンドロイドに「人間らしい心」を感じたというのです。
やはり、「日常活動型ロボット」として心があると判断されるためには、対話した人間が不自然さを感じない対話能力を実現するところがポイントになりそうです。
現時点で、多くのアンドロイドは、あくまでも受動的な動きしかプログラムされておらず、話しかけられたりする「イベント」に対して反応するという挙動にとどまっていますが、最終的にアンドロイドに「意図」や「欲求」までもプログラムされると、ほぼ完全に「心がある」と判断されるでしょう。
今後どう活躍していくのか
最後に、今後、アンドロイドがどう活躍していくのか考えてみましょう。まず、アンドロイドを導入しやすいのは、「商業施設や各種店舗での接客・案内業務」ではないでしょうか。
日本の労働人口は、2060年までに最悪の想定で42%減少するというデータもあります。国全体としての労働力が大きく減少していく中、アンドロイドで代替可能な職業での活用は、企業側から見てもメリットが大きく、イメージしやすいでしょう。
他には、高齢者向けのサービスに向けた活用というのも可能性がありそうです。石黒氏の研究によると、高齢者にとって人間とアンドロイドを見分けることは、さらに難しく、実際に区別できなかった人も多いとのことなのです。となると、一部の高齢者にとって、アンドロイドはもはや「普通の人間」と認識されます。この特徴を生かして高齢者の話し相手になるサービスや、介護サービスなどでは活用しやすいと考えてよさそうです。
私たちの生活に密着するアンドロイドが現れるのは、もう少し先の未来になるかもしれませんが、いずれあなたの周りにも、とてもリアルなアンドロイドが現れる日が来るでしょう。今後もアンドロイド開発から目が離せません。
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