テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.02.22

50~60代に増加!キレる中高年はなぜ増えたのか?

 「キレる」といえば若者!と決めつけることはできません。駅や病院などの公共の場で駅員や職員らに手を出したり、暴言を吐くなど、怒りに我を忘れる中高年を見かけることはないでしょうか。ニュースでもそうした事件が多く取り上げられるようになってきました。

 平成28年7月にJR東日本が公表した「鉄道係員に対する暴力行為の件数・発生状況について」というレポートがあります。その資料で平成26年と27年を比較すると50代、60代の加害者が増加傾向であり、事件の6割が40代以上という結果も出ています。暴力行為のすべてを「キレる」に結びつけることはできませんが、中高年の「キレやすさ」の増加傾向を見て取ることはできそうです。

「キレる」とは?

 いうまでもありませんが「キレる」とは、怒りの感情が、我慢の限界を超えて露わになる様子を表す言葉です。それは単なる怒りの感情表現にとどまらず、何をしでかすかわからない行動にまで発展することが社会問題にもなりました。一般的にいわれるのは、1990年代初期の「キレる若者たち」です。豊かな環境で育ったためのストレス耐性の不足や、子どもに対する親の過保護と過度の期待が、キレる若者を生産する土壌になっているといった分析がなされました。

 いまでは、「マジギレ」「ブチギレ」「逆ギレ」「キレキャラ」「キレ芸」という言葉が定着し、社会的にも若者の「キレやすさ」については、それほど驚くことはなくなりました。昨今の問題は、その主体が若者ではなく、人間的にも成熟しストレス耐性もありそうな中高年の「キレやすさ」という現象です。

中高年のキレやすさの理由

 こうした中高年のキレやすさについては、作家である藤原智美さんによる『暴走老人!』(新潮社)、心理学博士の榎本博明さんは『中高年がキレる理由』(平凡社新書)が参考になりそうです。

 中高年世代は約束されていた終身雇用や年功序列が崩壊し、リストラや賃金カットの対象となっている世代。また、急速に進んだIT技術によって仕事のスタイルも大きく変化し、あらゆるハラスメントを回避してゆかなければならないため、抱えきれないストレスの増大がその背景にあるという見立てです。

 また、ストレスを解消しうるコミュニケーションや言葉の不足もあるようです。藤原智美さんは、「地縁や血縁が薄くなった昨今、昔に比べて親戚や他人と話をする機会が減った。対話能力も低下しており、不満があってもなかなか口にできない。そのストレスが限界点を超えた時にキレるのではないか」と解説します。

「タフな心を保つためのコツ」とは?

 ストレスはどんな世代においても共通なだけに、若者のみならず、中高年もふくめ、ストレスに対抗する術を身につける必要がありそうです。榎本博明さんは『中高年がキレる理由』の最終章において、「心の裂け目から突然噴出してくる衝動に振り回されないように、タフな心を保つためのコツ」を解説しています。

 ・イラッっときたり、ムカッとしたときは、すぐに行動せず「ひと呼吸置く」
 ・怒りの衝動を鎮めるような「セルフトークを身につける」
 ・「ネガティブな思いの反芻グセを直す」

 ストレスは抱え込まないようにするというのが、一番の解決になりそうですが、自分がわからなくなるまでキレないようにするためには、こまめに発散するという方法が現実的な解決になりそうです。そして、常に「自分が何をやっているのか」ということに気づく、あるいは意識することも大切になるでしょう。

<参考文献・参考サイト>
・『暴走老人!』(藤原智美著、新潮社)
・『中高年がキレる理由』(榎本博明著、平凡社新書)
・JR東日本ホームページ(鉄道係員に対する暴力行為の件数・発生状況について、平成28年7月4日)
https://www.jreast.co.jp/press/2016/20160702.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

分断進む世界でつなげていく力――ジェトロ「3つの役割」

分断進む世界でつなげていく力――ジェトロ「3つの役割」

グローバル環境の変化と日本の課題(5)ジェトロが取り組む企業支援

グローバル経済の中で日本企業がプレゼンスを高めていくための支援を、ジェトロ(日本貿易振興機構)は積極的に行っている。「攻めの経営」の機運が出始めた今、その好循環を促進していくための取り組みの数々を紹介する。(全6...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/04/01
石黒憲彦
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)理事長
2

最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響

最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響

水から考える「持続可能」な未来(1)気候変動の現在地

今や世界共通の喫緊の課題となっている地球温暖化。さらに、日本国内の上下水道など、インフラの問題も、これから大きな問題になっていく。地球環境からインフラまで、「持続可能」な未来をどうつくっていくのかについて、「水...
収録日:2024/09/14
追加日:2025/03/06
沖大幹
東京大学大学院工学系研究科 教授
3

なぜやる気が出ないのか…『それから』の主人公の謎に迫る

なぜやる気が出ないのか…『それから』の主人公の謎に迫る

いま夏目漱石の前期三部作を読む(5)『それから』の謎と偶然の明治維新

前期三部作の2作目『それから』は、裕福な家に生まれ東大を卒業しながらも無気力に生きる主人公の長井代助を描いたものである。代助は友人の妻である三千代への思いを語るが、それが明かされるのは物語の終盤である。そこが『そ...
収録日:2024/12/02
追加日:2025/03/30
與那覇潤
評論家
4

イーロン・マスクは何がすごい?生い立ちと経歴

イーロン・マスクは何がすごい?生い立ちと経歴

イーロン・マスクの成功哲学(1)マスクが「世界一」になるまで

2022年、フォーブス誌が発表した世界長者番付の一位となったイーロン・マスク。テスラの電気自動車やスペースXのロケット開発などを通じ、革新的なイノベーションを実現してきたことで知られるマスクは、いかにして現在のような...
収録日:2022/06/22
追加日:2022/08/23
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
5

このように投資にお金を回せば、社会課題も解決できる

このように投資にお金を回せば、社会課題も解決できる

お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(6)日本の課題解決にお金を回す

国内でいかにお金を生み、循環させるべきか。既存の大量資金を社会課題解決に向けて循環させるための方策はあるのか。日本の財政・金融政策を振り返りつつ、産業育成や教育投資、助け合う金融の再構築を通した、バランスの取れ...
収録日:2024/12/04
追加日:2025/03/29
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員