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池袋チャイナタウンとは?―世界で急増する新形態の中華街
世界中で増殖する新しいチャイナタウン
日本のチャイナタウンといえば、横浜中華街、神戸南京町、長崎新地中華街。この3つは日本三大中華街と呼ばれ、観光スポットとして雑誌やテレビで頻繁に取り上げられています。ご存知の方も少なくないでしょう。しかし、同じ中華街でも、池袋駅北口エリアに突如出現した「池袋チャイナタウン」を知る方はまだ少ないかもしれません。「池袋チャイナタウン」は、チャイナタウン研究の第一人者である山下清海さんが名付けました。山下さんは、著書『新・中華街 世界各国で<華人社会>は変貌する』(講談社)の中で、池袋だけではなく、ロンドン、パリ、ミラノ、ロンドン、ブダペスト……など世界中で新しいタイプのチャイナタウンが急増していると指摘しています。
池袋で何が起きているのか
なぜ池袋にチャイナタウンが形成されたのか。その要因は大きく3つあります。まず第一に、交通の要所ともいえる池袋駅周辺の家賃が安かったこと。そして第二に、その家賃の安さと国際情勢も相まって1980年代後半に「新華僑」が急増したこと。山下さんは、中国の改革開放政策以前に海外に出た中国人を「老華僑」、改革以降に出国者を「新華僑」と呼んでいます。そして第三に、1991年、駅から徒歩1分の距離の位置に中国食品スーパー「知音中国食品店」が開業したこと。この知音の開業が、池袋駅北口周辺に新華僑の経営する店舗が集積するようになった最大の要因となりました。知音は書店、旅行社、料理店など新華僑同胞を対象としたビジネスを幅広く手掛け、その勢いにともなって開業する新華僑も増えていきました。2002年には、すぐそばに知音のライバル店となる中国食品スーパー「陽光城」が開業し、競争のさらなる激化とともにエリア一帯は新華僑ビジネスの一等地へと成長しました。
なぜ日本人街やイタリア人街は世界に広がらないのか
新華僑が主役となって、池袋チャイナタウンのようなニュータイプのチャイナタウンが世界中で急増しています。ちなみに、池袋チャイナタウンは冒頭の三大中華街のような観光地とはいえません。つまり、チャイナタウンは観光地とは限らないのです。まずは同胞を対象とした店舗が集積し、「新・中華街」が形成され、次の段階として現地人(日本であれば日本人)を顧客に取り込む観光地化が進んでいくと、山下さんは述べています。中国には「海水の到る所、華僑あり」ということわざがあるそうです。たしかにチャイナタウンほどに世界中にあまねく広がっているコミュニティはありません。では、なぜ日本人街やコリアタウン、イタリア人街は、チャイナタウンのように世界に広がらないのでしょうか。山下さんは、世界一の拡散力と集客力をもつエスニックタウンであるチャイナタウン形成のエンジンを5つ挙げています。
1:華人の血縁・地縁的なつながりの強さ
2:海外移住に抵抗感があまりないこと
3:金儲けに対する積極的な姿勢
4:世界中の人々から愛される中華料理
5:新華僑の流入が止まらない
これらのなかには、日本人街やコリアタウン、イタリア人街などにも当てはまる点があるかもしれません。しかし、これら全ての要素が詰まっているからこそ、チャイナタウンが世界に広がったということでしょう。
チャイナタウンに行こう!
前掲の『新・中華街』の中で、山下さんは、「四〇年ばかり世界各地のチャイナタウンを見て来たが、それぞれに、場所特有の「顔」を持っている。(中略)『顔色』が良くなったり、悪くなったり、すっかり『別人』になったりしている。チャイナタウンは生き物のようである」とチャイナタウンの魅力を表現しています。そして、「五感で、中国を離れて海外で暮らす華人の姿やチャイナタウンの雰囲気を体感してほしい」と実際にチャイナタウンに行くことを強く勧めています。現場には、本を読むだけでは知ることのできない面白さが眠っているはずです。『新・中華街』をガイドブックに、チャイナタウン散策に出掛けてみるのはいかがでしょうか。
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