●経営者は「心を許して遊ぶ」べからず
私が松下幸之助さんの側で働いていた時で、経営者になる前のことです。松下さんの西宮の自宅のお茶室で、お茶を飲んでいました。お茶が終わって立ち上がろうとした時です。いつもは松下幸之助さんが立ち上がって、そして私が立ち上がるという順番なのですが、松下さんが立ち上がらないから、私も立ち上がらなかった。
じっとして沈黙の時間でした。数分経って、松下幸之助さんはおもむろに「君、心を許して遊ぶような者は、経営者になれんで」と言う。私はびっくりして、「心を許して遊ぶのでは、経営者や指導者、上司にはなれませんか」と言ったら、「なれんな」と。「君、考えてみいや。信長は、酒を飲んでいても、敵国のこと、あるいはまた、隣国のこと、頭から離さなかったやろうな」と言いました。経営者、指導者、上司とは、そういうものだというのです。
「心を許して遊ぶ」という言葉がありますが、遊ぶのは悪くないのです。でも「心を許して」遊ぶということでは駄目です。遊んでいても、それをどこかで仕事に結び付ける。それが責任者という人の責任でもあるということにもなるわけですね。自動車に乗ったら、自動車に乗ってただ外を眺めるだけではなく、その町の様子からその町の経済力を察知したり、あるいは歩いている若い人たちから、この人たちは何を求めているか、何を考えているかを察知したりする能力など、そういうものを持つことが必要になってくるということにもなります。
●コップ一杯の水から国力を見る
松下幸之助さんは、毎月1回、全国から400人のトップを集めて「経営研究会」という会を本社講堂でやっていました。そこで、この洞察力の話をしました。その時に言ったのは、「わしは、外国に行って話をする。話をするときに、必ず水が出てくる。コップが出てくる。わしは、そのコップを見ただけでその国の国力が分かるんや」ということでした。
講演で話をしながらも、やはり心を許していないわけですね。そういう洞察力が必要だということです。話をしながら、その国の経営、経済力、経営力を見ていく。あるいはまた、皆さん方がゴルフや麻雀など、何をするか知りませんが、ゴルフをやりながらでも、「これはうちのあの仕事と仕事のヒントになるな」「これはキャラクターとして面白いのではないか」というような、いつもそういう働き、...