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緩和策と適応策で地球温暖化に伴う気候変動に備える

地球温暖化問題~温室効果と異常気象(4)排出削減から適応策へ

住明正
理学博士/東京大学名誉教授/サステイナビリティ学研究機構・特任教授
情報・テキスト
長期・短期の予測と問題意識を踏まえ、では、地球温暖化の具体的な対策として、何をどうしていくべきなのか。また、実際問題として、何が可能なのか。すぐできること、時間をかけてしていくこと。国がすること、個人ができること。国立研究開発法人国立環境研究所理事長・住明正氏が、さまざまな角度から温暖化対策の希望を語る。シリーズ「地球温暖化問題」最終回。(全4話中第4話目)
時間:12:59
収録日:2015/09/28
追加日:2015/12/14
≪全文≫

●適応策への注目が高まってきた


 それでは、温暖化に対してどうしたらいいかというと、従来は、いわゆる排出削減を中心とした緩和策が中心でした。基本的にはCO2を出さないようにする。そのためにはどうしたらいいか、ということが中心でした。

 それに対して、最近では、適応策をもっと考えるべきだという意見がどんどん強くなってきましたし、現に今回のCOP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)でも、その話が非常に大きな課題になると思います。

 では、なぜ適応策が従来あまり議論されなかったかというと、「適応で対処できるのなら、何も削減などしなくていい」という声が上がるのではないかという危惧からでした。これはいわゆるモラル・ハザード(倫理の欠如)と言いますが、「適応できるのなら別にもう何でもいいじゃないか」となってしまうのではないかという懸念があって、あまりそういうこと(適応策の議論)は言わないでおこうという雰囲気でした。

 ところが、ここに至って、そんなに簡単に削減は進みませんし、皆、頑張ってはいるものの、「やはり温暖化は避け難い」と、多くの人が考えるようになってきました。そうなると、実際に起きてから、「さあ、どうしましょうか」では間に合わないことが結構ありますので、今の時点から、将来の温暖化に対応してどうすべきか、今のうちから手段を練っておく必要があるという時代になったと言えます。


●緩和策と適応策は車の両輪


 また、もう一方、温暖化の問題は、すでに発展をした日本を含む先進国と、これから国づくりをしていく発展途上国との立場の違い、対立だと言われています。発展途上国に発展をやめろとは言えませんので、世界中の全ての国がちゃんとそれなりに新しい国づくりに向かえるような手立てを考える必要があります。そうすると、何はともあれ、やはり開発は避けがたいのです。ですから、国連などでもそうですが、現在では、サステイナブル・ディベロップメント・ゴールズ(持続可能な発展目標)というように、基本的に持続可能な発展をどう展開するかと考えるのが、現在の世界の潮流になっています。そういう持続可能な発展を考える際に、温暖化適応、気候変動に十分考慮して発展性を考えましょうという意味で考えられています。

 適応策だけやれば緩和策はしなくていいというわけではなく、当然、緩和策も頑張ってやっていく必要がありますし、また、緩和策だけでなく適応策も同時にやっていく。ここに関係を表した絵があります(適応策と緩和策の関係)。そういった影響は、災害外力によって引き起こされると考えますが、CO2が増えたりすることによって、基本的に災害外力は大きくなってきています。一方、堤防などのいろいろなインフラがきちんとしていれば、災害外力が大きくなっても災害が起きないように防ぐことができるのですが、インフラが徐々に老朽化するなどで適応能力が下がってくると、その分大きな被害が出ることになります。

 そのギャップを埋めるために、一方の緩和策はそういう災害外力が大きくなることをやめさせる力ですし、もう一方の適応策は、その災害外力に対する抵抗力を強めます。両方が相まって将来の気候変動に備えていくことが大事です。


●日本の適応計画を進める主体は地域


 いろいろな影響がすでに出ており、日本でもそうですが、これから適応計画をやっていこうという雰囲気になっています。中央環境審議会でも、地球環境部会の委員会でそういう報告が出ましたし、いま現在、国交省をはじめ各省は、それに対して適応計画をそれぞれ考えています。日本国政府も最近適応計画を閣議決定しました。

 適応計画とはどういうことかというと、実は場所によって違います。一律な方法でこうすればいいという問題ではなく、それぞれの土地によって違いますし、さらに社会のあり方、人の価値観も多様なので、それによっても変わります。

 例えば、昨年(2014年)の広島の土砂災害もそうですが、「ここは危ないから出ていきなさい」というわけにはいきません。家を建てていて動きようがないとか、さまざまな問題がありますので、簡単ではありません。また、一時期は、いわゆるハザードマップで、「ここは水害に遭いやすい」と明示すると、地価が下がるから困るなどのいろいろな問題がありましたが、昨今そういうことはだいぶなくなってきました。ともあれ、実は社会のあり方と密接に関係しているので、一律公式的に画一的に実施できるものではありませんが、真剣に考えていくべき問題です。

 いま、日本では過疎化が進んでおり、地方をどう活性化していくかという基本的な地域の発展計画が不可欠です。その中で、このように極端な気候への変化が起こり、それに伴って極端な事象が起きることへの対応策を、地域振...
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