●世界炭素市場の拡大と日本の課題
小原 CO2排出を削減するよう企業も含めて皆が大変努力するわけですが、努力をしても削減しきれないCO2の排出はどうしてもあります。
こうした、努力をしたけれど排出を止められなかった部分に対し、例えば、排出削減能力の大きい企業や個人がいれば、あるいは国境を越えて別の国にそうした能力があるのであれば、そうした他者との間で取引をする。つまり、自分が排出した分を、他の国や企業がよけいに削減した分で埋め合わせていく。
排出枠を購入し、それでもって自らの排出分を埋め合わせるという「オフセット」という考え方が今、国際社会で共有されています。日本でも、そうした制度作りが行われてきています。「J-クレジット」は、その典型的なものです。「グリーン電力証書」もそうです。そういった形で「実質CO2排出ゼロを目指そう」ということです。
このオフセットについては世界的なルールを作っていく必要があるということで、いろいろな話し合いが行われてきました。こうした「世界炭素市場」とでもいうものは大きく広がっていって、数年後には石油市場よりも大きな市場ができ上がるのではないかと予測する人たちもいます。
このオフセットの精神は、先ほども言ったように、やはり削減努力が前提です。懸命に削減するけれど、それでも排出される分をオフセットしましょうということなので、「削減が主、カーボン取引は従」というものが基本ラインです。この点を見失ってはいけません。
難しいのは、日本では石炭の比重が非常に大きく、2030年になっても全エネルギーの19パーセントほどを石炭が占めるのではないかと予測されていることです。ここで「脱石炭」への課題が1つあります。
それから、もう1つは「エンジン車の廃止」です。 エンジン車を一気に廃止することになると、エンジンは非常にたくさんの部品からなっているので、部品メーカーの雇用問題がある。あるいは今、日本はハイブリッドカーが非常に強いのですが、ハイブリッドカーの優位性を維持していく中で、一気に電気自動車に転換することが企業戦略として非常に難しかった背景もあるのです。
2021年末にトヨタ自動車の豊田章男社長が、「電気自動車を2030年までに350万台販売する」という目標を掲げて、電気自動車への転換を打ち出しました。それでもやはり転換期には、そうした企業の市場戦略とCO2排出目標をどうすり合わせていくのかという問題がある。あるいは、最終的には水素をエネルギーにするということになってくるわけですが、水素にもいろいろな問題があります。だから、一気に水素に転換するというわけにはいきません。
最終的には、こうした再生可能エネルギーへ転換するにあたっての制約が出てきます。これは資金面、技術面ともにある。それから日本の場合には、特に原発をどうするのかという問題もあります。
●中国は国家を挙げて再生可能エネルギーへ転換
小原 ここに各主要国の再生可能エネルギーの導入状況があります。エネルギー構成全体の中で、日本は再生可能エネルギーの比率がきわめて低く、16.9パーセントです。ヨーロッパはご覧になると分かる通り、イギリスにしてもドイツにしてもスペインにしても、3割を超えています。つまり、3分の1以上は再生可能エネルギーになってきています。
これを考えると、日本も遅れを取り返さなければいけません。
中国はかなり力を入れて、国家が先頭に立って進めているのですが、その背景として一番大きかったのは国民の不満です。
中国は大気汚染が非常にひどかった。そのため「美麗」という言葉を使って、そうした国づくりを行っていくことが国民の支持を得ました。中国共産党の統治の正統性にも関わる大きな1つの原因だったのです。ほかには労働人口が減少していく、対外依存を減らしていかなければいけないといったことが背景にあります。
こうした難しい状況の中で再生可能エネルギーを増やしていくにはどうするか。「parity」といって、再生可能エネルギーによる発電価格が化石燃料による発電価格に見合うようにコストダウンしていかなければ、なかなか市場で自由に供給し、需要されるようにはなりません。
その意味でいえば、例えば風力は非常に価格が高いわけです。それを国家が買い取ってきた。そういった政府の支援がある中で、急速に広がりを見せてきたのです。
太陽光についてはドイツから技術を入れるなどをして、かなり国家が前面に出て育成をしてきました。この結果、太陽光においては世界市場を席巻するほど大きな産業になったということで、2014年には補助金も削減し...