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世界が抱える「3つの危機」と気候変動の深刻な関係

「危機の時代」の気候変動(1)3つの危機とCOP26の成果

小原雅博
東京大学名誉教授
情報・テキスト
世界は今、3つの危機の中にある。その一つが「グローバルな危機」で、中でもCO2などの温室効果ガスによる「気候変動」が世界共通の問題となって久しい。2021年に開かれたCOP26でも、「今後、気温上昇幅を1.5度以内に抑える必要がある」という認識が共有され、それに向けて努力することが確認された。そのことは評価に値するのだが、国際政治的な観点からみると、そこには国ごとにかなりの温度差があるという。(全6話中1話) ※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:13:37
収録日:2022/02/16
追加日:2022/04/07
≪全文≫

●世界は今、3つの危機の中にある


―― 皆さま、こんにちは。

小原 こんにちは。

―― 本日は小原雅博先生に「危機の時代の気候変動」というテーマでお話をいただきたいと思います。小原先生、どうぞよろしくお願いいたします。

小原 よろしくお願いします。

―― 講義のタイトルとして「危機の時代の気候変動」ということですが、その心はどういったものでしょうか。

小原 私は最近、講演でも「今、世界は3つの危機の中にある」という話をよくします。3つの危機ですが、1つ目は「グローバルな危機」です。例えば、われわれが今直面している新型コロナウイルス感染症によるパンデミックがあります。それから、今回テーマとして取り上げる気候変動の問題もそうです。

 2つ目は、いわゆる「地政学の危機」です。今ウクライナで大変な危機が起きています。台湾海峡でも地政学的な危機があります。こうした大国間の競争、あるいは大国間の力による抗争というべき状況があります。

 そして3つ目は、「国家の危機」と私は呼んでいるのですが、例えば人口減少少子高齢化であったり、あるいは所得や資産などの格差が拡大していたりします。これは、新型コロナウイルス感染拡大によって深刻化しています。

 そうした3つの危機があります。そして、それらが相互に作用し合っている複雑さ、深刻さがあるのです。

 このことを念頭に置いて、「危機の時代における気候変動」の位置づけ、その問題を皆さんと共有したいのです。特に地政学との関係です。私は気候変動の専門家ではありません。地政学の観点、あるいは国際政治の観点から、気候変動について議論したいと思います。

 中でも、焦点は大国関係です。特に米国のバイデン政権は「競争と協力」を掲げていますが、こうしたグローバルな問題、共通の危機、共通の脅威に対しては、どうしても各国が協力していかなければいけません。ただ、やはり地政学的な観点からの競争が強まると、協力が非常に難しくなってきます。そうしたことも念頭に置いて、今回はお話をしたいと思います。よろしくお願いします。

―― よろしくお願いいたします。


●COP26で示された努力目標「気温上昇を1.5度以内に抑える」


―― では、まず国際政治の観点から見た気候変動の現状についてお話しいただければと思います。

小原 これは先ほど述べた「競争と協力」の「協力」の部分ですが、2021年11月から12月にかけて、イギリスでCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が行われました。これは気候変動枠組条約に基づいて世界中の国が参加し、「CO2排出削減のために努力していこうではないか」という会議です。その結果のエッセンスを、パワーポイントの資料として抜き出しました。


 簡潔に説明すると、気候変動の破壊的な影響を避けるために専門家たちが研究した結果、「気温上昇幅を1.5度以内に抑えないと大変なことになる」という結論が出ました。その研究結果をもとに、政治的なコミットメントがこの場でできたのです。「2030年までにCO2排出量を、2010年比で45パーセント減少させることが必要だ」ということです。そうして成果文書には、「1.5度に抑える努力を追求することを決意する」という文章が入りました。

 こうした成果文書は、多国間交渉の場合には多くの国の意見、立場を採り入れていかなければいけないので、少しまどろっこしい文章になります。ですが基本的には、基本的には上昇幅を1.5度に抑えようというコンセンサスができたということです。

 もう1つは、エネルギーを再生可能エネルギーに転換していかなければならないのですが、いまだに化石燃料への依存は大きい。特に石炭です。そこで、石炭(からのCO2排出量)を削減しなければいけないということで、これについての言及が初めてありました。どのような言及かといえば、「排出削減対策が取られていない石炭火力発電と非効率な化石燃料への補助金の段階的削減の努力を加速する」というものです。

 これもややまどろっこしい表現です。各国との交渉の中で、各国の立場、あるいは強い主張や異論を踏まえて、こうした表現になりました。ただ私は、初めて石炭に言及したことを評価としたいと思います。


●各国は本当に目標を達成できるのか


小原 ただ厳しい目でみると、目標について、「達成できるか」と書きました。

 達成できるかどうか以前に、まず各国の目標を見てみると、それほど革命的な目標ではありません。例えば2050年の目標について、先進諸国が「ネットゼロ(大気中に排出されるCO2から、大気中から吸収・除去されるCO2を差し引いた合計をゼロにすること...
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