●建築基準法改正が木造にもたらしたメリット
時代が少し変わると、1980年代に貿易摩擦が激化し、日本は輸出大国になってあまり輸入をしない、と言われるようになりました。木材関係でいえば、「お前ら、木造建築を造るわりに、木を輸入しないな」ということです。なぜかというと、日本の建築基準法の規制で、木造では2階建てまでしか造ってはいけない、あるいは大きい建築を造ってはいけない、と書いてあったからです。それを撤廃しようということで、1987年に建築基準法が改正され、3階建ての木造住宅が建てられるようになると、こういう大きい屋根の建築が造れるようになる。ドームや体育館といったものです。その時に、大断面集成材という小さい材を接着して大きくした材が出てきます。
そして、ここで実はいいことと悪いことが起きるのです。いいことは何かというと、このように、鉄骨造やRC造(鉄筋コンクリート造)と同じように構造計算できる木造建築が生まれるようになる。ですから、前回もお話ししましたが、これから出てくる都市木造は都市部に建っているのだから、木造だからといって、今まで通りに造ればいいというわけではなく、鉄骨や鉄筋コンクリートで造っている建物と同じような性能の建物を造らないといけないわけです。そのためには、構造計算、耐震性というものを検証しなければいけない。ここでその技術がスタートをするわけです。
●改正の悪影響-「屋根の建築」という思い込み
ただ、一方で悪い面もあるのです。何かというと、「木造は屋根の建築だ」と思い始めてしまったのです。見上げるものや、細かい材をたくさん束ねたガチャガチャしたもの。よく民家や農家で、天井を張っていない所で屋根を見ると、「おっ、すげー太い材がある」などと言って感心する、そういう文化になってしまったのです。「文化になってしまった」と言うと後のオチになってしまうのですが、なぜか屋根の建築というのが木造だということになってしまったわけです。
でも、都市部にはこんな建築はいらないのです。都市部には、屋根の建築ではなくて床の建築が欲しいのです。床がたくさんあるような建築でなければ困るのです。だから、実は「この写真のイメージが木造です」と言われると、都市部には絶対、木造は建たないのです。ですから、これも駄目なわけで、要は過去から学ぶものは実はあまりない、という話になってしまいます。
そこで、小さいもので少しずつそれに抵抗し始めているものとして、こういう建築が生まれるのです。前回お話しした軸組構法だけではなく、厚さ10センチぐらいの板を造って建てた建築や、柱梁もラーメン構造といって、鉄骨造やRC造と同じような構造形式の建物だったり、屋根とはいっても、本当に屋根だけという薄っぺらい屋根を造りましょうとか。こういう構造計算する建物が生まれてくるということです。
●生活スタイル、森林資源の変化に合わせる
木造建築とは何かと考えると、そもそも建築とはずっと変化をしている。なぜ変化をしているかというと、生活スタイルが変わっているのだから、建築も変化して当たり前なのです。生活スタイルに合わせて建築は造らなければいけない。もう一つ問題なのは、社会システムです。木造建築の問題は森林資源という建築産業と関係ない分野の社会システムも取り入れていかなければいけない。法隆寺の時代の森林資源と今の森林資源とでは状況が違うわけですから、今の森林資源の状況に合った、今の生活スタイルに合った建築を造ろうと思ったら、必ずしもここにお見せしているような木造建築が答えではないのです。
では、経済性、合理性を突き詰めてやっていくのか。実は1950年代に、今でいう有名な建築家、 丹下健三や前川國男といった人たちが若い頃に、小さい建築だけれども、日本の近代建築は木で造るべきだという「木造モダニズム」という時代がありました。そこには実は伝統木造からつながる、木を使って魅力的な空間を、経済性、合理性だけではなくて造ろうという時代がある。そこで現代でも同じような流れがあるわけです。
だとすると、実は過去など勉強しなくてもよいのです。よく「過去に学べ」と言うのですが、建築業界には学ぶこともあるけれど、学ぶと足かせになるという場合もあるのです。木造が実はそうです。最近やっと言われなくなりましたけれど、私もこういう活動を10年以上やっていますが、最初の頃は、「腰原くんは、木のことを本当に分かっているの?」とよく言われました。なぜかというと、こういうラーメン構造やプレハブの話をしてしまうからです。昔から木造をやっている人は皆、昔ながらの木造建築が一番で、他は駄目なのです。
なぜか。よく分からないのですが、私は別に「今の木とは何なの?」と思うわけです。...