●「木はもうからない」という現実
前回、木のメリットや役割についてお話ししましたが、そうはいっても、実は木は安いので、全然もうからないのです。前回、50年ぐらい前に孫のために木を植えたという話をしました。では、木1本でいくらもうかるでしょう? 500円です。50年間育てて500円しかもうからない。その500円も実は苗木を買うお金にはなっていないのです。
実は今は、ほとんど採算がとれない状況です。だから、山の人たちは、伐っても売れないから伐るのをやめましょう、となります。そうすると、先ほどお見せしたように、こういう手入れされていない状況になるのです。山から木を下ろすだけでお金はかかるわけで、でも、高くは売れないから下ろすのが面倒くさいわけです。そこで、税金が投入されて、山の整備のためにお金を使いましょう、ということになるわけです。ですから、木単独では実は売れていないのです。
表に、国が投資している金額と市場規模が書かれていますが、木材や木製品の物質生産は2兆円ぐらいで、その程度の規模の市場です。これを他の山にあるもので比べると、最近は工場でも育てていますが、キノコ産業が大体2兆円規模です。ということは、実は山であれほど目立っている木材と、その下の方に生えているキノコで、同じぐらいの市場でしかない。だから、木材はもうけようがないのです。
●木が山を守っているという価値観が重要
では、違う見方をしましょう。「木は山を守ってくれている」という見方があります。前回お話しした「地球を守ってくれている」という見方が一つありますし、「山を守っている」という価値観があるわけですね。
例えば、景観や風致です。「山を見る」ということ。遠くからでも見る。つまり、山は、山単独ではなく都市から山を見て、あるいは飛行機から山を見て、または、山にレクリエーションで行って気分転換をしてくる。それだって、都市の人にとっては山の恩恵なわけです。それを療養、保養という市場でみると2.2兆円。もう物質生産と同じぐらいですね。その他、スポーツがあったり、風致、学習、教育、芸術などはお金に換算できないので分かりませんけれども。
もっと大事なのは、実はこちらの水源涵養、土壌保全といった機能です。山は木を植えるためにあるわけではなく、水を蓄えましょうとか景観をつくりましょうとか、山そのものが崩れないように表層崩壊や土砂災害を防ぐ土壌保全をしましょう、などということがあります。こちらの分野になると、6.4兆、28.2兆、こんなオーダーのお金が動いているわけです。
●発想を転換して「木はおまけ」と捉える
こうなってくると、木がもうかる、もうからないという話は、本当はおまけなのです。逆に言うならば、「林業をやっている人たちは、山を守ってくれている人たちなんだ」という見方をしてあげないと、「あいつらは木を売ってもうけている」と言われても困るわけで、山を守ることで全体の効果を持っているわけです。先ほど50年やって500円しかもうからない、と言いましたが、実はそういう人たちが山を頑張って手入れをしてくれて、全体が成り立っている状態なのです。
ですから、ちょっと税金の投入の仕方も難しいですよね。林業に出しているので、なんだか個人がもうかっているように思ってしまうけれど、本当は「山を守っている人」として税金を投入すべきで、「木を売っている人」という立場でやらない方がいいのではないかと思います。言い方だけの問題ですが。このような状況なので、「木はおまけだよ」ということです。
この「おまけ」というのは日本の精神として大事で、「せっかく50年育てて木を伐ったんだから、その木を有効活用してあげましょう」という気持ちがずっとあるわけです。「とことん使ってあげよう」という気持ちですね。それなのに荒れた山の状態では寂しいですよね。全ての木を使ってあげるにはどうしたらいいか。ただでさえ余っているので、ということになるわけです。
●木材消費は都市部に集中
そこで、建築業界としては一体どうやったらいいかという話になります。このグラフの青い棒が各県の森林にある木材量、赤い棒が各県に建てられている建物の床面積で、床面積に0.2を掛けています。0.2を掛けるというのは何かというと、木造の建物は1平米当たり0.2立米の木材を使うので、平均すると20センチぐらいになるということです。
ということは、赤い棒は何かというと、その県にある建物を全部木造で造った場合に使う木の量です。要は、赤い棒が多ければ木材がその分必要ということになります。青い棒は山にある木。赤い棒は建築で使える最大限の量です。関東を見てみれば、やはり埼玉、千葉、東京、神奈川などは、山がたいしてな...