●木造の魅力を引き出す技術と「木」の外壁
現在の都市木造技術はまだ「竪穴式住居」状態で模索中ですが、一歩先にある魅力の部分も足さなければなりません。では、どんな外観をしていたら格好がいいのだろうと考え始めると、実は少しずつですが、もう出てきています。
都市の中で、建物自体は木造でなくても、木の外壁を使おうという動きが出始めているのです。例えば浅草の観光センターもそうですし、こちらは表参道の交差点にある商業施設です。
建築家は、どういうわけか細い木をたくさん並べるのが好きです。いろいろな都市部で木の外壁のビルの写真を撮ると、大概似たような趣きになります。これは何かというと、町家の「千本格子」とか柱梁の線なのです。
昔のような2階建てぐらいなら、傷んでも梯子を使えば交換できますが、ここまで高い建物になると、上の方が腐ってきたときにはどうやって交換するのかも考えなければいけない。残念ながら、今のところは、まだその技術が確立されていません。
●技術を開発するには案件が必要というジレンマ
ここに4枚写真があります。木がたくさん見えている左側の2枚は木造ではなくて、木の見えない右側の2枚が木造の建物です。なぜこうなるのかというと、木を構造材として使った場合、外に露出すると「雨掛かり」の高いハードルがあるので、なかなか前面には出せない。でも、鉄筋コンクリート造であれば、木は交換できる前提なので、見えるようにできるということです。この辺りが技術のジレンマなのですが、将来的にはこういう建物も本当に木造で完成できるようになるかもしれません。
今後問題になるのは、このような技術開発は案件、課題がないと全く前に進めない点です。まさに「鶏が先か、卵が先か」のようなものです。建てたいけれども「建てられる技術がないから、建てません」と言われてしまうのですが、「建てたい」と言われないと、技術もなかなか進歩しないわけです。
日本初の本格的な木造オフィスは、誰が建ててくれることになるのでしょうか。こういう講演会などでお話しするときに私は必ず、「皆さん、ぜひ本社ビルを木造にしてください。今なら『日本初』という冠がいくらでもついてきます」と言っています。ぜひやっていただきたいと思います。
●「木の風景」を伝えるイベントは都会の中心で
私たちの活動では、「風景」が一つのテーマなので、これまでの伝統や慣習にとらわれない木の使い方の可能性に取り組んでいます。
活動を始めたのは2000年でしたが、先ほども言ったように2005年に「金沢エムビル」ができて、2007年に次の物件。「どうしてこんなにできないんだろうね」と話していたら、簡単なことでした。皆「知らない」からです。2000年の時点でこういうことができるようになったことを、誰も知らなかった。
私などは、知っていて当たり前だと思っていたので、「これは困る。知らせるための展覧会をやりましょう」ということで、東京・青山のスパイラルでやることにしました。話題の槇文彦さんが設計されたところです。イベントはこうした都市部でやらなければいけません。
木造業界の悪い習性に、何かというと「新木場でやろう」と言い出すところがあります。確かに新木場は木材の町ですが、そこには木が好きな人しか行かないのだから意味がない。木に興味のない人に宣伝しないといけない。都市部で、「たまたま来たら、木の展覧会をやってました」というのが大事なのです。ところが、木造業界は、いつも新木場やビッグサイトへ行ってしまう。ああいう目的を持った人しか来ない所ではなく、たまたま「体験できる」ことが大事なのです。
スパイラルの隣はカフェになっているのですが、展覧会が終わる頃に、そこの店長さんから「売上がいつもの3割増でした」と喜ばれました。よく聞いてみると、木の香りがするのが原因らしい。鉄筋コンクリートのビルなのに木の香りがして、何かお茶を飲みたくなる人が増える。そういう効果もやはりあるのかもしれないと思います。
●人も企業も寄り集まって、都市木造をイベントに
何よりも、こういう体験のできる場がなくて、木に触る機会がないことが、今の大きな問題です。
都市木造をつくる上ではいろいろ問題がありますが、そもそも使う側からの要望が出てこないことが、一番に挙げられます。「こういう建築は木造にするといいよね」とか「うちの会社を木造にしてください」と社員が言ってくるような風潮がないのです。
企業の人にとっても木を使うことは、それだけが目的になるわけではなく、山がその奥に控えている。都市部が山の恩恵を受けているのだとすれば、やはり「木を使います」ということは、CSR活動として大変重要なのです。
しかし、そもそ...