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平均深度4キロの海底に挑む3種のツール

自律型海中ロボット~深海に切り込む(4)海中アドベンチャー

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
海底2万里
海は、地球最後のフロンティアとも呼ばれている。地球表面の70%は海が占めているにもかかわらず、陸上の生活では海の様子を垣間見ることはできない。科学は、その不思議にどのように迫ってきたのか。自律型海中ロボットの権威である九州工業大学ロボット具現化センター長・浦環氏が語る。(全5話中第4話)
時間:10:59
収録日:2016/01/12
追加日:2016/06/13
タグ:
≪全文≫

●陸の平均高度800メートル、海の平均深度は?


 この図は、1000万メートルの上空から見た地球です。しかし、ここには雲がない。Googleで見ているからです。遠くから見ると、地球はこんなふうなものです。

 何が申し上げたいか。ここには、広い海が見えています。地球の表面の7割は海です。しかし、今この部屋で話をしている私には、ここから海は見えません。東大にいたときも、そこから海は見えませんでした。今、九工大の建物は6階建てですが、そこから見ると遠くに響灘と玄界灘の海が見えます。

 次の図は、地表の深さと高さがどのぐらいの割合になっているかを、平均的に書いたものです。右軸はゼロから100のパーセントなので、地球表面の3割が陸地で、最も高いところが8000メートルであるのが分かります。

 海面はここ(高さゼロ)から始まって、大陸棚、大陸棚斜面、大洋底、それから、海溝とどんどん深くなっていきます。地球には非常に広い大洋底があります。

 海の平均深度は3795メートルと図に書いてありますが、約4000メートル、4キロという深さになります。それに対して地表の高さは、エベレストが8000メートルでしたが、平均高度は800メートルです。

 変な言い方になりますが、「山より高く、海より深い恩」と言う場合にこの数字を当てはめてみると、海の深さの恩の方がずっとありがたいのではないか。冗談ではありますが、この事実をわれわれが認識することは、なかなかありません。


●気象衛星「ひまわり」にも映らない「海の底」


 気象衛星やGoogleができたことにより、われわれはようやくこの広い海を一望することができるようになりました。ここには2010年9月19日撮影とありますが、気象衛星ひまわりは昨日も今日も、「現在形の地球」を撮影しています。「ひまわり」から見た地球に大きく広がる海を、われわれが見ることができるのは、科学のおかげです。

 気象衛星の発達により、海の上で台風がどう動いているのか、雲はどう動くのかが見えるようになってきました。これを見ても、やはり海が大きく広がっているのが分かります。

 さらに3次元の地球表面を2次元に移して展開してみると、次の図のように見えます。広い海の全体像が、現在ではいつでも見られる時代になりました。ただ、こうして海の表面や雲、地表は見られるようになっても、海の底まではまだ見えていません。

 Google Earthを見ると、最近は海底の地形もぼんやり分かるようになっているので、海底を写真で撮ったかと思われそうですが、あれは海底の凸凹を地形図から起こして描いているだけです。海の底は、ほんの10~20メートルという程度の深さになると、もう見えなくなるのです。


●陸から見えない「海の中」を調べる理由


 陸上にいると海面さえほとんど見えないのに、海の中などはわれわれの普段の生活からはますます遠いところにあります。したがって、「海の中のことは何も知らない」と言えばいいのかもしれません。

 そこで、未知の海の中を潜って、どうなっているのかを陸上同様に調べに行かなければなりません。なぜ調べに行くのかというと、いろいろな理由があります。一つには水産資源です。われわれは魚を食べている。そして、海水温は地球の気候に非常に大きく影響しますから、地球環境のためにも、海の知識は非常に重要です。

 さらに、潮の流れを調べると、船はどちらを走る方がいいのかなどが分かります。黒潮はどう流れているのか、海の底はどうなっているのか。調べる項目は無尽蔵にあります。

 調べる手だてとしては、まずダイバーがあります。素潜り、スキューバダイビング、飽和潜水、いろいろな潜水方法を用いて潜ることができます。しかし、生身の身体で潜れるのは、われわれが行っているスキューバダイビングでせいぜい40~50メートルぐらいです。


●ダイバーの行けない海中を探る3種のツール


 海の平均深度は4キロですから、それより大分深く、ダイバーでは行き着けません。そこで、有人潜水船(潜水艦)やケーブル付きの遠隔操縦機を用います。そして、この講義のメインテーマであり、私の研究対象である自律型の海中ロボットが登場します。

 このような道具立てがないと、海の中には行けないため、その様子は分かりません。有人潜水船には人間が乗り込みますが、それ以外のものは、どれもロボットです。こちら(RTV100やJASON)が遠隔操縦ロボットで、こちら(TunaーSand)は全自動ロボットだと思ってください。

 ここで重要なのは、陸との間でケーブルがつながっていることです。このケーブルはいったい何をしているのか。エネルギー補給もありますが、主に情報の通信をしています。テレビ...
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