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民主主義と科学が近代中国に突きつけた大問題―内聖外王

東洋の普遍、西洋の普遍~中国の思想的課題(4)民主主義をどう根付かせるか

中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
概要・テキスト
梁漱溟(1893‐1988)
中国や東アジアの思想が理想としたのは、有徳の王が政治を支配する「内聖外王」だった。西洋がもたらした民主主義と科学という新たな外王にどう対応するか。これが中国近代の大問題だった。東京大学東洋文化研究所副所長・教授の中島隆博氏が、アジア思想の根本問題とも言えるこの問いに、現代中国がどう答えているかを論じる。(2016年4月21日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「東洋の普遍、西洋の普遍 科学、民主主義、資本主義」より、全7話中第4話)
時間:08:36
収録日:2016/04/21
追加日:2016/08/17
タグ:
≪全文≫

●中国近代最大の問題は、新しい「外王」への対応だった


 中国近代について少しだけ振り返った場合、一番大きな問題は何だったか。私は次のようなことだと思っています。よく「内聖外王」という言い方をします。「内聖」というのは、「内において聖人になること」です。ある種の宗教的な高みに、修養を通じて到達をする。自己修養、近代風にいえば自己啓蒙です。自分をどうやって啓蒙していくのか。これが「内聖」です。そして「外王」とは、外においては王であるということですから、政治を指します。その「内聖」と「外王」とが結び付くはずだというのが、前近代の中国あるいは前近代の東アジアの確信でした。有徳の王は、良い政治を行うことができるに違いない。このように考えていたのです。

 ところが、近代において直面した問題は、新しい「外王」、新しい政治が登場したことでした。一つは民主主義です。そしてもう一つは科学です。民主主義と科学という、これらの新しい「外王」を、「内聖」とどう接続をするのか。新しい「内聖」が必要なのか。あるいは、古い「内聖」を少し変えるだけでいいのか。これが大問題です。


●日本のケース、中国のケース


 日本の場合は、そこを非常に曖昧にしていきます。曖昧にしていって、どちらかと言えば、どっちつかずでやってみる。非常に中途半端な形で、「内聖」「外王」問題を処理していきました。

 ところが中国は、先ほど申し上げたように、一方で非常に西洋化を進めていきます。いわば「内聖」という道を放棄するのですね。これが(中国の)メイン・ストリームです。例えばここで、梁漱溟という、非常に重要な中国の近代思想家を挙げておきました。彼はこう言いました。現代における新しい「外王」である民主主義と科学を述べるのであれば、それは西洋文化から学ぶべきであって、中国文化からではない。彼はこう言ったのです。

 中国文化から言えることは何か、それは孔子孟子の「情理」を再び活発にすることだけである。ということは、西洋文化に基づいている民主主義と科学、これは当時の普遍だったわけですから、それを考えるのであれば西洋文化から学ぶしかない。中国から(学ぶものは)出てこない。

 もちろん中体西用論などはありました。日本でも和魂洋才という折衷的な考え方がありました。でも彼は、そんなものは無理だと言っているのです。そんな...
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