テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

時代の先端を行く経営論、ダイナミック・ケイパビリティ

ダイナミック・ケイパビリティ~組織の戦略変化(1)不確実な時代の経営論

谷口和弘
慶應義塾大学商学部教授
情報・テキスト
『日本の資本主義とフクシマ―制度の失敗とダイナミック・ケイパビリティ』
(谷口和弘著、慶應義塾大学出版会)
国や企業、文系/理系といったさまざまな「境界」がはっきりしていた20世紀に比べ、現在は不確実性が高まっている。その中で企業経営のあり方も、大きな変化が求められる。21世紀に必要なのは、境界を飛び越える越境力=ダイナミック・ケイパビリティだ。慶應義塾大学商学部教授・谷口和弘氏が、新たな戦略的経営論を語る。(2016年6月23日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ダイナミック・ケイパビリティと戦略経営」より、全7話中第1話)
時間:10:06
収録日:2016/06/23
追加日:2016/08/30
≪全文≫

●経営の世界を理解する「眼鏡」を提供する


 ご紹介にあずかりました、慶應義塾大学の谷口と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 ご紹介いただきましたように、今日の演題は「ダイナミック・ケイパビリティと戦略経営」です。ダイナミック・ケイパビリティとは何かを一言で言うと、「変わる力、変える力」ということです。環境は変わるのだけれど、成功体験に引きずられてなかなか変わることができないということが多々見られるわけですが、そういった状況を打破するにはどうしたらいいのかという話です。

 戦略経営は皆さんの専門領域ですから、私がそれについて何かお話しするのは、いわば「お釈迦さまに説法をする」、あるいは「イギリス人に英語を教える」ようで恐縮です。ここで紹介するのは、一つの枠組み、あるいはフレームワークです。皆さんも、経営の世界における複雑な現象に何らかの眼鏡をかけると、現実がよく見えるようになるといったことがあるかと思いますが、そういった眼鏡を提供できればと思っています。


●20世紀は「安定した時代」だった


 20世紀といっても、少し前のことになりますが、これは「境界」がはっきりしていた時代だと思います。言うならば20世紀は「安定した時代」、あるいは「不確実性が低い」時代と言えます。不確実性というのは、分かりにくい概念かもしれません。リスクと不確実性がよく比べられるのですが、これらは違います。リスクというのは、言わば確率です。さいころを投げると「1の目が6分の1で出る」という計算は、客観的にできるわけですね。ところが不確実性といった場合、計算が難しい。イギリスが離脱するのか残留するのか、(もし離脱したら)EUはどうなるのだろうといったことの可能性は、日々状況が変わるため、分からないわけです。弊社の製品に対して、中国からどんなライバルが出てくるのだろうといったことを考えるとき、それもなかなかよく分からない。そういう不確実性について考えるというのは、逆に言えば、経営者の勘や勇気のようなものが大事になってきます。不確実性とは、そういったことだと思います。

 そして先ほどの「境界」という話です。20世紀は、比較的国境がはっきりしていた時代です。グローバル化が起こる前ですね。産業(の境界)も割とはっきりしていて、自動車業界や家電業界など、そういう業界の区別がはっきりしていた。企業の境界もはっきりしていたのですね。例えばフォードだったら、自分のところでものをつくろうという姿勢だったわけで、アウトソーシングするような状況は20世紀後半になってだんだん増えてくるものです。

 さらにもう一つ重要なのは、理系と文系の壁もはっきりしていたことです。経済学部出身、あるいは経営学部出身、法学部出身、医学部出身などの形で、きちんとした学問の領域がはっきりしていた時代だったと思います。これが20世紀です。


●グーグルは検索エンジンの会社ではない


 では今の状況はどうか。グーグルのセルフドライビングカー、いわゆる自動運転車というものですが、これはカリフォルニアで走っています。皆さん、グーグルは検索エンジンの会社だと認識されていると思いますが、実は今、アルファベットという持ち株会社をつくって、グーグルがその下にぶら下がっているという構図なのですね。このグーグルカーを開発しているのは、エックスという会社ですが、そのエックスは自動運転車以外にも、スマートコンタクトレンズというものも開発している。それは何かというと、血糖値を自動で測定するような製品です。これをコンタクトレンズで考えて、そのための研究をやっています。また、ソフトバンクは携帯電話の会社ではないのかと思っていたら、今年の4月から始まった電力の小売自由化の事業に参入しています。

 大きな変化は、ベルリンの壁の崩壊です。これは1989年の11月10日の出来事ですが、東ドイツと西ドイツが統一され、冷戦が終わったことの象徴です。あるいは現在、2015年の欧州の難民危機という話もあります。欧州に、シリアをはじめとする中東から多くの難民が来ました。グローバル化が言われている時代なのですが、政情危機などの理由で国を追われた人たちが、船などを使ってこれまでの想定以上に渡ってきた。そこでこれから、国境という境界をどのようにマネージしたらいいのか、国民国家と言われているネーションそのものはどのように変わっていくのか。そういう国境の話が出てきました。


●21世紀は「不安定」で「不確実性が高い」時代だ


 さらにAI(人工知能)です。この中にもロボットの研究や関連する事業を行っている方がいるかもしれませんが、いわゆる「ムーアの法則」によれば、チップの処理速度は日々進化しており、1.5年で2倍ずつになって...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。