パラリンピックでの衝撃と「スタートラインTokyo」の挑戦
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パラリンピックでの衝撃と「スタートラインTokyo」の挑戦
芸術と文化
臼井二美男(義肢装具士/切断者スポーツクラブ「スタートラインTokyo」創設者)
「義足をつけた人でもスポーツができる社会にしたい」―義肢装具士として義肢装具サポートセンターで義足の製作を行いながら、切断者スポーツクラブ「スタートラインTokyo」(旧名称:ヘルスエンジェルス)を創設した臼井二美男氏を支えているのは、この思いだ。クラブ創設から25年、パラリンピックによって障害者スポーツのレベルも格段に向上した今だからこそ改めて見えてきた日本の課題を臼井氏が語る。
時間:12分46秒
収録日:2016年7月19日
追加日:2016年9月5日
≪全文≫

●義足で走ることにもかなりの意味がある


 義肢装具サポートセンターに入社して5年ほどたってからのことです。アメリカやドイツ、カナダで出されている義肢の専門誌を見ていた時に、パラリンピックで義足の選手が走っていることに気が付きました。

 ところが、僕の周りで義足を履いている若い人、例えば20歳の男性には、生活用の義足はあっても、スポーツ用の義足がありません。生活用の義足で野球をやったりテニスをやったりすると壊れてしまいます。どこが壊れるかというと、足部が折れてしまうのです。

 一度や二度くらいならば大丈夫なのですが、定期的にスポーツをやるとやはり壊れてしまいます。そうやって一度壊れてしまうと、学校に行けなかったり、仕事に行けなかったりするので、みんな慎重になります。そうすると「スポーツはできるだけしない方が良い」とか「しなくて当たり前」といった感じになってしまうのです。そういう現状に気が付きました。「若い人に走るチャンスを何とか与えられたらいい」と思い、職場に提案しました。

 まず、当時出たばかりのアメリカ製の部品で、ある程度走っても大丈夫な耐久性のあるものを仕入れました。それを若い人に実験的に履いてもらいランニングを始めたのが、スポーツ用の義足を作るきっかけです。

 スポーツ用の義足の人が同じ力をかけても反発が良いので、走りやすいのです。今まで一歩も義足で走ったことなどなかった人が、一緒に伴走するだけで5~6歩、ぽんぽんぽんと走れたのです。その人は中学生の時に足を失くしてから10年間、歩くことしかできなかったのですが、その義足を使えば自分でも走れるという体験をしたのです。そうすると涙を流すのです。走れるなんて思っていなかったからです。

 実際にその様子を見て、「義足で走ること」にもかなりの意味があることが分かりました。それから現在に至るまで、基本的には同じ考えです。「一歩も走れなかった人を、10歩でもいいから、足があったときの感覚で走らせたい」、この考えが今に続いています。


●2000年のパラリンピック出場で見えてきた課題


 そういった取り組みの中で、パラリンピックを目指していろいろな大会にチャレンジしたり、練習に励んだりする若い人が出てきています。基本的に義足の人はそういう道具(スポーツ用の義足)がないと走れないのが実情ですから、そのた...

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