●ドゥテルテ大統領の本質は地方政治家出身であること
ご承知の通り、フィリピンのドゥテルテ大統領が最近では随分と話題になっています。日本でも外国でも、フィリピンのドゥテルテ大統領は「フィリピンのドナルド・トランプだ」といった議論がありますが、私は、あれは全くの間違いだと思っています。というのも、ドゥテルテ大統領にしても、それから(インドネシアの)ジョコ・ウィドド大統領にしても、地方自治体の首長として、かなりしっかりとした業績を上げているからです。
ダバオは、フィリピンの地方都市の中では最も治安の良い町です。だからこそ、あの地域の経済は本当に活況を呈しているのです。そういう実績の上にドゥテルテ氏は大統領になっています。ですが、もともとは地方政治家ですから、外交・安全保障問題には全く関心がないのです。
しかもドゥテルテ大統領の場合には、いわゆる麻薬の問題があります。彼の演説を聞いていると、370万人ほど麻薬の中毒になっている人たちがいるということで、フィリピンにとって、これは大変な問題なのだといいます。そして、そのところについては、誰が何と言おうとやると、決めているのです。
そこでバラク・オバマ大統領が「人権」などと言うと、アメリカ兵がミンダナオでモロ(ミンダナオ島のイスラム教徒)の戦士を殺している100年以上前の写真を持ってきて、「お前らはこういうことをやったじゃないか」と言い返してしまうのです。そういう意味で、ドゥテルテ大統領はトランプ氏とは全く違うタイプで、本当の意味での地方政治家ですから、自分がやりたいことは何かを非常によく分かっています。そこのところはきちんと理解した上でお付き合いすることを考えなければいけないと感じます。
ドゥテルテ大統領側の人から私が聞いている限りだと、日本の指導者は、安倍晋三総理とも、また岸田文雄外相もお互いに結構うまくいったという感じです。もちろん超法規的にドラッグアディクツ(麻薬中毒者)を殺すことがいいとは決して思いませんが、そうかといって「けしからん」と言っているだけだと、多分反発されて終わりなのでしょう。
●東南アジアの民主化と地方分権化がドゥテルテを生んだ
そういう人が出てきているのはなぜか。フィリピンの場合には、もう随分前になりますが1986年にコラソン・アキノ氏(通称コリー)が出てきて、いわゆる"People power revolution"があったのです。あれで民主化が進み、地方分権が進みました。その産物なのです。
それからジョコ・ウィドド大統領のインドネシアも、1998年にスハルト体制が倒れ、その後次々と大統領が変わる中で民主化が進み、地方分権が進んだのですが、その産物なのです。その意味で私は、アメリカも自分たちがかつて進めた民主化推進の政策が成功した、その産物ということを忘れてはいけないと思います。
ですから、今はもうそうした時代ということで、おそらく他の国でもそういう人が出てくるでしょう。タイは揺り戻しがありましたが、タク・シンさんもある意味ではそういう人でした。チェンマイという地方から出てきた人で、かなりドゥテルテ氏などを思い出させるようなことをやった人です。マレーシアも、次かその次の代になったら、そういうタイプが出てくる可能性は十分にあるのではないかと思っています。やはりアジアは、大きく変わりつつあるのかなという気がします。
●欧米とは異なる「正義」が支持される
もう一つあります。私は最近、こういうことをあまり言わなくなりましたが、フィリピンのアクション映画を見ると、たいていの場合、かなり貧しいけれどもしっかりした男が、妻と子ども、あるいはその友だちを守っている。ところがギャングが出てきて、どこかでギャングが男とぶつかり、女房と子どもを殺してしまう。そこで彼がキレて、ギャングを皆殺しにする。こういったストーリーの映画が多いのです。
かつてフィリピンでは、フィデル・ラモス氏の後に出てきた(ジョセフ・エストラーダ)大統領は元映画スターでした。この人は、映画の中でその役割を演じたわけですが、今度の人(ドゥテルテ大統領)は映画ではなく、現実の世界でそういうことをやっているという面があります。その意味で私は、フィリピンの一般の人たちにとって非常に分かりやすいと思います。欧米人や日本人から見ると、超法規的に警察官が麻薬犯を殺すのは何だ、という感じがありますが、結構分かりやすい人たちなのだなとも思います。
●迷走するマレーシアだが、10年後に可能性も
またマレーシアの場合、ご承知の通りナジブ・ラザク首相はほとんど四面楚歌の状態です。大変なスキャンダルを抱えていて、国際的にいっても、本当にレッドカードを突き付けられているような人です。私はある意味で、マレーシアの政治もマ...