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ナノマシンによる投薬は抗がん剤の副作用すら緩和する

ナノテクノロジーで創る体内病院(3)副作用なきがん治療

片岡一則
ナノ医療イノベーションセンター センター長/東京大学名誉教授
情報・テキスト
ナノマシンを用いたがん治療は、膵臓がんや脳腫瘍のような薬が届きにくいがんにも有効だ。また抗がん剤で問題となる副作用も、ナノマシンによる投薬ならば解決可能だ。研究を進める東京大学政策ビジョン研究センター特任教授でナノ医療イノベーションセンター長の片岡一則氏によれば、数年以内には様々な抗がん剤を乗せたナノマシンが承認され、使用可能になるという。(全5話中第3話)
時間:14:29
収録日:2016/10/24
追加日:2017/03/08
≪全文≫

●薬が届きにくいがんも、ナノマシンで治療可能になる


 ミセル型ナノマシン、組織の中にまで薬が高く浸透していきます。そのため耐性がんだけではなく、前回お話しした薬が到達しにくいがんでも、同じようにやっつけることができるのではないかと考えられます。そこで次に調べたのが、膵臓がんです。

 膵臓がんは、5年生存率が20パーセント以下という、非常に治りにくいがんです。いろいろな理由がありますが、一つには「間質」といって繊維質がすごく多いのです。繊維質が多いため、薬がなかなか到達できないという問題があります。

 左の写真は、ヒトの膵臓がんの病理組織像です。青い部分ががん細胞の塊、クラスターです。赤い部分が間質という繊維です。緑が血管です。このように、非常に不均質な構造をしていることが分かります。さらに血管は、この繊維質の中にしかありません。そのため、仮に薬が血管から出たとしても、この繊維質の中をずっと通っていかないと、がんの組織、細胞にまで到達できません。

 今までドラッグデリバリーでよく使われていた、リポソームという物質がありますが、これは大きさが100ナノメートルほどです。ミセルより少し大きい。しかし実際にこれを投与すると、血管の周りで全て捕まってしまい、薬が細胞の中に入れないことが分かりました。

 ところが、この自動会合でつくる高分子ミセルであれば、大きさをきれいにコントロールすることができます。そこで、大きいミセルと小さいミセルをつくって比較をしました。先ほどと同じように、生体内の共焦点顕微鏡で観察をしています。30ナノメートルの小さい方は、緑の蛍光色素、70ナノメートルの大きい方は赤の蛍光色素で染めています。両方を混ぜると黄色です。そのため血管の中が黄色く見えます。このがんの中を見ていただくと、完全に緑色になっています。30ナノメートルのミセルだけが、がんの中にどんどん入っていっていることが分かります。

 赤はどこにいるのかというと、みんな壁の所にへばりついてしまい、中まで入っていけないのです。サイズを精密制御することで、薬がなかなか届かない膵臓がんの中にまで入っていけることが分かりました。


●大きさを制御すれば、膵臓がんも治療できる


 次に、これをさらに正確に証明するため、次の実験を行いました。SPring-8というものを聞いたことがあるかと思います。これは、岡山県にある非常に大きなシンクロトロンの放射光施設です。ここに、先ほどの組織標本を持っていきました。なぜこんなことをするのか。この放射光からは、非常に強いX線が出ます。このリングの接線方向にX線が出るのですが、この強いX線を導いてきて、そのまま顕微鏡に入れてしまいます。すると、顕微鏡の中に強いX線が入るので、蛍光X線分析という元素分析ができます。

 これを用いて、がんの細胞の塊、クラスターをどうやって見分けるか。これは決して難しくありません。クラスターの中には血管がありません。つまりヘモグロビン、鉄分がないのです。したがって、鉄のシグナルの低いところが、がん細胞一個一個の塊だということです。

 まずはこうやって鉄分の低い部分を見つけ、今度はその部分の薬の分布を調べます。これには白金抗がん剤を使っていますので、薬の中に白金が入っています。この白金を目印に見ていくと、30ナノメートルのミセルでは、がん細胞のクラスターの中に白金がきちんと入っていますね。ところが、70ナノメートルのミセルには入っていません。ここからもはっきりとサイズコントロールをすることで、きちんとがんを退治できることが分かりました。実際に、30ナノメートルまで粒径を下げると、がんの増殖をきれいに抑えることができます。

 そうはいっても、まだ疑り深い人がいます。例えば、「こういう実験は、みんな移植したがんではないのか」「皮下に膵臓がんを移植したら、結果は違うだろう」と言います。こうした批判に応えるためには、同所移植という、膵臓に膵臓がんをつくって見るやり方を採ります。これもやりました。それでもまだ「やはり移植してから(結果が)違うのだ」という意見があります。ではどうするのかが問題です。


●「ヒトにできるがん」を再現した実験


 ヒトのがんの状態を、もっと正確に反映することが必要です。最近はこの課題に対して、遺伝子改変マウスが使えるようになりました。この遺伝子改変マウスは、遺伝子に細工がしてあり、自然と膵臓がんになってしまいます。かわいそうなマウスで、百発百中で膵臓がんになってしまいます。しかもこれは、遺伝子にホタルの蛍光タンパク、ルシフェラーゼを組み込んであるため、ルシフェリンを打ってあげると光ります。これを外からイメージングの方法で見ると、下にあるように、だんだん日にちがたつにつれて、どんどん光っていき...
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