●ナノマシンで「ミクロの決死圏」を現実化する
ここまでご紹介した研究結果を踏まえて、将来はこういうことができるといいなと考えています。小惑星探査機の「はやぶさ」をご存じだと思いますが、これのすごいところは、小惑星まで行って着陸するだけではなく、そこから情報を採取して戻ってきたことです。同じようなことが体の中でできたらいいなと思っています。
体内を自律巡回するナノマシンが病気の場所に行き、診断・治療をし、疾患情報を採取して、体の中に埋め込んだチップで情報を検出して外部に発信する。これができると、本当の意味の究極の先制医療ができるので、全ての医療機能が人体内に集約化されます。体内病院が出来上がります。SFの世界だった「ミクロの決死圏」が、現実になるわけです。
ついでにいうと、「ミクロの決死圏」には元ネタがあります。それは「38度線上の怪物」という手塚治虫が作つくった漫画です。ほとんど知られていませんが、手塚治虫が1954年頃に描いた漫画で、人間を小さくして体の中に送り込んで結核菌と闘うという漫画です。一応通説ではそうなっています。それはともかくとして、こういうものができてくるでしょう。
●飛躍的な進化を続ける医療機器
医療機器の進化を見ると、松葉杖が今から3,000年前に発明されました。それをまだ使っています。つまり人間は松葉杖を3,000年間使っていることになります。その後、大きな進歩はありませんでしたが、20世紀に入ると体外型の人工臓器ができ、20世紀の後半になって体内型の人工臓器ができました。そして21世紀に、カプセル内視鏡ができました。このように、医療機器はどんどん小さくなっています。機能はどんどん向上し、どんどん低侵襲化しています。だから将来的には、ウイルスサイズのスマート・ナノマシンになるだろうと思っています。
自動車に例えると、最初の車は「走る」というところからスタートし、そのうち多目的自動車のようにいろいろなバリアーを越えたいと思うようになりました。さらにレーダーの信号を検知して操る状態になり、最後は自動運転になろうとしています。われわれのこのナノマシンも、走ることからスタートし、血液脳関門を突破して、さまざまな信号でコントロールされ、最後は体内を自律巡回して、体内病院ができるだろうということです。
●川崎から医療イノベーションを起こす
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