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ナノテクノロジーで『ミクロの決死圏』の世界を実現させる

ナノテクノロジーで創る体内病院(1)ナノマシンの作り方

片岡一則
ナノ医療イノベーションセンター センター長/東京大学名誉教授
情報・テキスト
ハリウッド映画『ミクロの決死圏』のように、体内に病院を創る。東京大学政策ビジョン研究センター特任教授でナノ医療イノベーションセンター長の片岡一則氏は、自動的に診断や投薬、手術までも行えるナノマシンの研究開発に取り組んでいる。ナノマシンは、様々な構造体にすることができ、さらに体内のpH変化に反応して、投薬などさまざまな行動を取ることができる優れものだ。(全5話中第1話)
時間:14:20
収録日:2016/10/24
追加日:2017/02/22
≪全文≫

●ナノテクノロジーで体内病院を創る


 片岡です。今日は、「夢を形に:ナノテクノロジーで創る体内病院」というタイトルでお話をいたします。これはスライドの副題にもあるように、「あらゆる生体内の微小空間でいろいろな機能をコントロールする革新技術を創ろう」という話です。

 本題に入る前に、SF映画の話を少ししたいと思います。Science Fictionです。これは60年代にハリウッドでつくられた、『ミクロの決死圏』という映画です。若い方はあまり知らないと思いますが、われわれの世代は映画館でこれを見ました。これはどういう映画かというと、お医者さんをうんと小さくし、さらに乗り物も小さくして、血管を通してお医者さんを体の中に送り込み、悪いところを内側から治すという映画でした。つまり、病院を体の中に持ってきてしまうようなもの、言わば体内病院です。英語では“In-Body Hospital”といっていいと思いますが、そういう内容でした。

 私はこれを、確か中学校か高校の頃に見て、非常に感激したことを覚えています。いつかこういうことができるといいなと思いました。もちろん人間を小さくするという話だとオカルトになってしまうので、そういうことはできません。しかし、乗り物の方をうんと小さくし、それをリモートコントロールして体の中に持っていけば、映画のような体内病院ができるのではないか。映画はSFでしたが、実際にこれを形にしていこうというのが、今ここで行っているプロジェクトです。


●ナノマシンのつくり方


 では、どのぐらい小さくすればいいか。血管を通り、かつ組織の中に入っていかなくてはいけないので、いわゆるマイクロマシンでは大きすぎてしまいます。体に感染する様々なウイルスがありますが、ウイルスと同じほどのサイズにする必要があります。具体的にいうと、100ナノメートルより小さく、50ナノメートルほどにする必要があります。そうすると、普通の機械のように歯車を組み合わせたり、あるいは素材を切ってつくったりするというわけにいかないため、全く違う方法を使います。分子を組み上げてつくるという形になります。

 レゴというおもちゃがありますが、レゴはブロックを組み合わせてつくるおもちゃですね。だからここでのやり方は、レゴ分子をつくり、それを組み上げて乗り物をつくっていくというものです。この乗り物の中に薬や遺伝子、あるいは造影剤などを入れて運んでいきます。

 ではどうやってそれをつくるか。今お話ししたように、分子を組み上げるので、まずはその材料となる分子をつくらないといけません。スライドで示したように、はじめに高分子をつくります。高分子はポリマーともいいます。一般的にポリマーというと、ポリ袋や自動車のタイヤなどをイメージしますが、実はわれわれの体も、タンパク質という高分子でできています。そのため、高分子化合物はとても身近にあるのです。ここでは、生体の中にある高分子を使うのではなく、特別なデザインをして合成した高分子を使います。

 高分子はどのぐらいの大きさかというと、引き伸ばして1本のひものようなものにすると、大体10ナノメートルほどになります。スライドでは緑と赤で示していますが、違う種類の高分子を連結する役割を果たします。緑のひもを1つのブロック、ちょうどレンガのようなものだとして、違うレンガを組み上げてつくっていきます。こうしたレンガを、ブロック・ポリマーと呼びます。

 どちらも生体の中に入れて使いますので、体にとってなじみのいいものでないといけません。そこで、例えばスライドの赤い部分はポリアミノ酸を使います。緑はポリエチレングリコールという高分子を使います。あまり聞いたことがないと思いますが、食品添加物の一つです。口から飲むいろいろな薬の中にも入っているので、安全性の高い合成の高分子です。ポリエチレングリコールの特徴は、親水性であることです。また、ポリアミノ酸の方もいろいろ加工できて、例えば疎水性にしてあげることも可能です。


●ナノマシンの形は自在に調節可能


 ただ、これだけでは機能が出ませんから、1本の高分子の中に様々な機能を位置選択的につくり込んでいくことから、話はスタートします。例えば、「標的指向機能」という標的の細胞に選択的に結合する機能であったり、あるいは薬剤を担持する機能(薬剤担持機能)です。これは薬とか造影剤を抱え込んで持っておく機能です。さらに、環境応答機能です。これは細胞の中、あるいは体の中の環境に応答して、自在に構造を変化させる機能です。こういう機能をまずここでつくり込んでしまいます。これが第1段階です。

 今度はこれを、適当な条件で水の中に分散させます。そのときに、必要に応じてこの高分子に薬を結合させる場合もありますし、後から入れる場合もありますが、いずれに...
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