●中東停戦へのレバレッジはトルコ、政治解決のキーはイラン
前回に引き続き、シリア問題をめぐるロシア・トルコ・イランの動きについて触れてみたいと思います。
シリアにおける停戦、つまり内容が何であれ、ともかく地上から戦火がなくなることを停戦と意味すれば、その停戦を実現しようとしているのは、現実にはロシアです。停戦とはもう少し言い換えれば紛争の凍結であり、その紛争の凍結や停戦のカギになるのは、トルコです。
トルコは今、反アサド武装勢力に援助をしており、地上軍を投入している国です。よって、トルコが、地上軍の作戦をコントロールし、かつ武装勢力に和平への協力に同意させるためのレバレッジ(テコ)になるということです。
これは、トルコとロシアがなぜ協力しているのかという現在の経緯をアメリカなどに対して説明する上で重要な「正当化の論理」になっています。
しかし、停戦や紛争の凍結の後にくるのは、紛争の政治的な解決(Political solution)です。その段階においてカギになるのは、今度はトルコではなくイランに他なりません。イラン・イスラム共和国こそ、アサド政権とその国内の治安維持兵力を支援し、シリアの運命を実際に握っている当事国であるからです。
●トルコは、ロシアのイランに対する牽制カード
トルコは、前回お話ししましたが、アメリカや国連がかつてそうであったように、ロシアがその停戦を達成した後、このロシア優位のゲームから追い出されるのでしょうか。それとも、トルコはそれほどヤワではないのでしょうか。
これはなかなか難しい問題です。ウラジーミル・プーチン氏がシリアのコントロールのはしごを登っていく、つまりシリアのコントロールを強めていくにつれて、トルコの関与度合いやその存在感の必要性の度合いが決まってくるのだろうと思います。
しかし、トルコの存在感がすぐにはなくなるとは思えません。なぜかというと、ロシアにとってトルコは大きなカードになるからです。時にはロシアの意思を無視(もしくは素知らぬ顔を)して、自らのシリア政策を追求し通そうとするイランに対する牽制の大きなカードになるのがトルコだからです。
現実にイランは、ロシアとトルコの協力関係に満足していません。イランは、無条件の、絶対的な、妥協なきアサド政権の勝利、そして明快なアサド政権の存続を望んでいます。したがって、トルコとの間で、何らかの条件付きでアサド政権の存続を図るといったようなことはありません。地上軍兵力を投入しているイランは、同じ地上軍兵力を投入しているトルコに対して、きちんと互角に対応しながら、妥協せずにシリアの将来構想を持ちたいのです。
●中東停戦後には「担任圏」をめぐる複雑な政治解決が待つ
アラウィー派(シーア派の一分派)であるアサド政権の背後には、ベイルートやレバノンに蟠踞するヒズボラ(シーア派)、イラクのシーア派政権、そして、シーア派のイラン・イスラム共和国などがいます。これらは、湾岸のシーア派の分布と並んで、地中海から湾岸に至る強力なイランの勢力圏であり、先日私が使ったおとなしめの言葉でいえば、「sphere of responsibility(担任圏)」に当たります。これを究極的にはロシアにも認めさせていきたいというのがイランの思惑です。
こうした点でロシアとイランの間には、いささか齟齬が生じざるを得ません。そのときにロシアはトルコをカードとして使い、牽制する。イランは逆に、トルコ・カードをなくしたいので、ありとあらゆる手段を使ってトルコをシリアから追い出していこうとする。こうした中で、地上における政治的なコントロールをしていく、あるいは治安維持的な秩序をコントロールしていくゲームが、これから始まるわけです。停戦や紛争凍結の後にくるのは、このような複雑な政治的解決(Political solution)のゲームです。
アサド政権、すなわちアサド大統領は、シリアの将来がどうなるべきか、シリアがどうあるべきかということに対して、ロシアよりはむしろイランに近い構想を持っているかと思います。つまり、ロシアの作戦によってシリアが苦境に立つようなことは避けたいということです。
●シリアとイランにロシアが放つ最後のワイルドカードとは
これが何を意味しているかというと、グローバル・リーダーシップを回復したかに見えるプーチン大統領にとって、今度はシリア、あるいはむしろイランに対して、何らかの牽制をしてかからねばならないということです。
そうした中、イランにとって絶対に妥協できない相手、しかしロシアにとっては妥協でき、ワイルドカードとして使える存在が一つあります。しかも、その存在がこれまでの中東のゲームの中で誰もまだ本格的に使わない切り札として残っていることに、ロシアは目をつけ...