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技術革新がもたらす自由な働き方とは?

「働き方改革」の課題と展望(5)もっと自由な働き方へ

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
スキルの陳腐化を引き起こす技術革新は、働き方において必ずしもネガティブなだけのものではない。東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏が強調するのは、情報通信技術の発達で可能になった、より自由な働き方だ。今やスマホ1台あれば、仕事が可能な時代になりつつある。そこにはどんな可能性があるのか。(全6話中第5話)
時間:08:55
収録日:2017/02/21
追加日:2017/03/31
≪全文≫

●技術革新で、時間と場所にとらわれない働き方が可能に


 働き方改革を進めていくもう一つのポイントは、技術革新との関係です。現在、技術が進歩すると、社会は大きく変わります。変化はかなり激しくなるという意味で、それは働く人にとって少し厳しい方向性だったと思いますが、せっかく変わっていくこの技術革新を、もう少しポジティブな方向でもって、働き方改革に生かしていく。これが、考えていくべきもう一つのポイントだろうと思います。そのためには、技術革新によって、可能となる働き方が大きく変わっていくところに注目すべきだと思います。

 もう少し未来志向でいえば、技術革新によって、時間や空間にとらわれない働き方がどんどん可能になっており、これからもっと可能になっていくだろうということです。この方向性は、一人一人の働き方にとってかなり大きなプラスになるはずです。これを生かしていくべきではないかと思います。

 これは、私が事務局長として担当して書き、厚生労働省が長期的なプランとしてまとめた「働き方の未来2035」の大きなポイントです。時間や空間にとらわれない働き方ができるとなると、会社に毎日、同じ時間に出勤しなくても済みます。そうすると、例えば子育て中でも、家にいながら働けます。あるいは、多少体力に自信がなかったり、足腰が弱ってしまった高齢者の方でも、在宅で仕事ができるようになります。そうして、自分の都合の良い時間だけ働くなど働き方の自由度が相当広がり、今はできないような働き方ができるようになってきます。


●スマホ一台あれば仕事ができる時代


 時間と場所にとらわれない働き方に関しては、すでに今でもその芽はだいぶ出てきています。スカイプなどを通じてやれば、在宅でもコミュニケーションが随分取れるようになっています。電話会議やテレビ会議は今よりも技術が発展してくれば、もっと便利にできるようになるはずです。あたかもここに人がいるかのように見えながら会議をすることも、やがてできるようになるだろうといわれています。会議室で人が並んで会議しているように見えても、実際にはそこにいる1人は沖縄、1人は北海道、別の1人は香港、そしてもう1人はニューヨークにいる、といったことが、ごく自然にできるようになるということです。

 またスマホやタブレットは、働き方の自由度を相当に高めました。実際、すでに多くの人にとって本当に会社の机に座っていなければいけない仕事の部分は、かなり減ってきていると思います。

 「ノマド」といわれている人たちは、そういう働き方をしていますが、喫茶店でノートパソコンを持っていれば、そこでほぼ仕事ができてしまうのです。そこからファイルをアップしておけば、上司はそのファイルを都合の良い時間に見ればいいということで、上司がいるときに書類を出さなければいけないわけでもなくなってきました。こういうことが、今でも随分起こっています。こうした方向性が今後はどんどん進んでいくはずで、新しい働き方をより生かしていくことができるでしょう。


●「週の前半は東京在住、後半は地方在住」が可能になりつつある


 先ほど仕事をする空間は在宅でも構わなくなるという話をしましたが、もっといえば、例えば地方にいても構わないということになります。地方に住んで東京の仕事をする。あるいは東京に住んで地方の仕事をする。こうしたことも、もっと自由にできるようになるはずです。

 これは、地域活性化や地方創生という話において、今までとはかなり違った次元のインパクトを与えてくれるはずです。今でも地方の自然が豊かな場所に住んで東京の仕事をしているIT関係の人たちは少しずつ増えてきていますが、こうしたことが多様な産業でできるようになれば、住むところと仕事するところを分けて考えられるようになります。

 例えば、半分は東京に住み、半分は地方に住むといったことも可能です。1カ月のうち、1週間だけ東京で仕事をするけれども、残りの3週間は四国にいるという働き方ができると、もっと自然を満喫した生活ができるようになるかもしれません。こうしたことも、地域活性化にとって大きな変化をもたらすことになるだろうと思います。


●副業や兼業も容易になった


 さらにもう一つ、短期的な面でも大きな話題になっていることですが、副業や兼業が可能になるということが挙げられます。政府の短期的な達成目標として、副業や兼業が議論になってきた一つの理由に、そうやって少しでも生産性を上げてほしいということがあります。しかしもう一つ、大きな理由としては、それが可能になった、つまり副業や兼業を可能にする技術革新が起こったことが挙げられると思います。

 何度も申し上げているように、同じところに集まって、みんなが同じテーブルを挟んで仕事をしな...
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