●赤旗法が自動車産業の発展を阻害した
新しい技術を導入するに当たって、注意しなければいけないことがあります。私たち人類がかつてそうした際にうまくいった例やうまくいかなかった例から、多くのこと学ぶ必要があるでしょう。
19世紀中頃、蒸気自動車が開発されました。しかしイギリスでは、蒸気自動車が市内を走ると危険だということで、市街地では時速3.2キロ、郊外でも時速6.4キロの速度制限がかかりました。さらに、市街地を走る場合には、前方に赤い旗を掲げた人が歩かなければいけないという、いわゆる赤旗法が制定されました。
これは、自動車の利用を阻害するものであると同時に、自動車産業の発展をも阻害したといわれています。イギリスではなく、大陸のフランスやドイツで自動車産業がいち早く発達したのは、イギリスでこうした悪法が作られたことも関係しています。
●アメリカでは飛行機の利用に補助金が出された
一方で、新しい技術が新しい制度によって発展する、という事例も見られます。第1次世界大戦中には、多くの飛行機が利用されました。これは軍事技術として開発されたのですが、戦争が終わればその目的はなくなります。しかし、ヨーロッパでは鉄道網が戦争で破壊されていたため、人や物を運ぶ手段として、飛行機がいち早く使われるようになったのです。反対に、戦場にならなかったアメリカでは、鉄道網が発達したため、飛行機を利用する人はほとんどいませんでした。アクロバット飛行の見せ物としてしか、飛行機の利用価値はなかったのです。
こうした状況では航空産業の発展は見込めないということで、アメリカでは郵政省が中心となり、郵便物を運ぶために飛行機を利用すれば補助金を出す、という制度が作られました。ただ、初期に採用されたパイロットの多くは、事故で命を落としてしまいました。そうした悲惨な事故もありましたが、こうした事業を通じて飛行機が発達し、現在私たちは飛行機を便利に使えるようになっています。
確かに、無人機という新しい技術も、やはり安全を確保した上で使わなければいけません。しかし、その規制が厳しすぎてもいけませんし、緩すぎてもいけません。このことを歴史から学ぶべきだと思います。
●未来を予測するには「すでに起こった未来」を見よ
今後、無人航空機が私たちの社会を大きく変えてくれるのではないかと、期待が高まっています。離島や過疎地では、さまざまな利用がすでに始められつつあります。また、大きなインフラの点検や、都市部での医療機器の緊急輸送などでも、すでにドローンの利用が検討されています。こうした利用が進んでいけば、新しいサービスも生まれてくるでしょう。私たちの生活も、より便利なものになると期待できます。
最後に、それでは、こうした未来にどのように向き合えばいいのか、考えてみたいと思います。未来を予測することは楽しいことではありますが、未来は本当に予測できるのでしょうか。
経営学者のピーター・ドラッカーは次のように、述べました。「われわれは未来について2つのことしか知らない。一つは、未来は知りえない、もう一つは、未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違う、ということである」。つまり、未来は分からない、というわけです。
しかしドラッカーは同時に、未来を知るためには、2つの方法があるとも言っています。「一つは、自分で創れば未来を知ることができる」ということです。成功した人や事業、企業は、自らの未来を自ら創ってきました。「もう一つは、すでに起きたことの帰結を見ることである」と言っています。過去に起きたことについては、何が原因で、それが起きたのかを分析することができます。これに基づいて、未来を知ることができるというわけです。ドラッカーはこれを「すでに起こった未来」と名付けました。
●過去の事故から学び、無人機を安全に使うルールや技術を見越す
例えば、航空機事故の場合、事故を調査することによって、どのようなことが原因で、どのような対策を立てればいいのか、航空機の長い歴史の中で私たちは模索してきました。この年表は、旅客機が積極的に使われるようになった第2次世界大戦後、どのような事故が起きてきたのかをまとめたものです。
1950~60年代、技術が未熟だった時代には、その未熟さによって大きな事故が引き起こされました。その原因を究明し対策を立てることで、安全性が高まるわけです。さらに、技術が成熟してくると、今度は人間が事故を起こすようになります。いわゆるヒューマンファクターが原因となった事故が、目立つようになったのです。あるいは、激しい気象による事故も、数的に増えてきました。
やがてはこうした事故も、ヒューマンエラーを防ぐ訓練方法の整備や、気象観測の発達によ...