「ものがたり」のあるコンプライアンス
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厳格なルールを作ることがコンプライアンスの本質ではない
「ものがたり」のあるコンプライアンス(2)モグラたたき
國廣正(弁護士・国広総合法律事務所パートナー)
国広総合法律事務所パートナーで弁護士の國廣正氏が、NHKのインサイダー取引事件を例に、コンプライアンスの失敗について解説する。当時NHKでは、過去3,000万件の伝票がチェックされるなど、コンプライアンスが徹底されていた。だが、こうした「モグラたたき」ではリスク管理に失敗する。必要なことは、何のための仕事かを考え、リスクへの想像力を働かせることだ。(全7話中第2話)
時間:9分03秒
収録日:2017年8月24日
追加日:2017年10月13日
≪全文≫

●当時すでにNHKは徹底したコンプライアンスを行っていた


 NHK記者によるインサイダー取引事件はとんでもない話です。本来、報道機関であるNHKは、報道の自由や取材の自由という権利に基いてニュース情報を集め、それを国民の知る権利に奉仕するために報道します。それが事もあろうに、記者が自分の小遣い稼ぎに報道の権利を使ったのです。これは当然、許しがたいことです。

 しかも、インサイダー取引を行った3人の記者は、友達でも何でもありませんでした。つまり、たまたま報道情報システムを見ていた3人が、別々にインサイダー取引を行ったのです。そんな記者が3人もいたのか、ということで大問題になりました。NHKには批判が殺到し、会長の首がすっ飛んで、第三者委員会が設けられました。

 第三者委員会には私も入っていたのですが、徹底的にいろいろな調査を行いました。世の中から、「NHKのコンプライアンスは一体どうなっているんだ」、「コンプライアンスになっとらん」と非難が集まったのは当然ですが、私たちもNHKのコンプライアンスを調査しました。コンプライアンスについて極めて不熱心、不真面目であったのではないかと考えていたからです。

 ところが、当時、すでにNHKは徹底したコンプライアンスを行っていたのです。このインサイダー事件よりもさらに数年前、紅白歌合戦のプロデューサーが制作費を使い込むという事件が起きていました。その時も会長の首が飛ぶほどの大事件でした。これをきっかけにして、NHKは徹底したコンプライアンスに努めることにしたのです。


●NHKの考えるコンプライアンスは「モグラたたき」だった


 しかし問題は、コンプライアンスの内容です。プロデューサーの制作費の使い込みに対しては、「国民の受信料を使い込んで許し難い」という非難が殺到しました。そこで、NHKは徹底してお金を締め上げて、不正を阻止しようとしたのです。400人体制で数カ月にわたって、過去7年分3,000万件の伝票が全てチェックし直され、不正がどんどん摘発されました。「どうしてこの時、タクシーを利用したのか」、「この鉛筆は何に使ったのか」と徹底的に締め上げ、不正も数多く見つかりました。

 そして、費用の無駄遣いや不自然な使い方が多いということで、非常に徹底したコンプライアンス施策が取られたのです。例えば、取材に行くためのタクシー利用には、例外なく事前申請が必...

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