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企業価値を高めたコンプライアンスの成功例とは?

「ものがたり」のあるコンプライアンス(4)官製談合

國廣正
弁護士・国広総合法律事務所パートナー
情報・テキスト
国広総合法律事務所パートナーで弁護士の國廣正氏が、官製談合をやめることを決めたある会社を取り上げ、コンプライアンスの成功例として紹介する。確かにコンプライアンスの徹底によって、苦しい状況に陥ることもあるだろう。しかし、トップが自社は何のためにあるのかを考えて、コンプライアンス徹底の決断を下せば、それが企業価値の向上につながっていく。(全7話中第4話)
時間:09:21
収録日:2017/08/24
追加日:2017/10/15
≪全文≫

●官製談合とコンプライアンス


 今度は成功例も見ていきましょう。これも3つ例を挙げます。第1は、A社の事例です。私自身が10年以上前に関与した事件ですので、匿名でお話しします。

 それは談合組織からの離脱にまつわる事件です。A社は全国展開をしている企業で、官公庁などにも製品を納入していました。2000年に入った頃は、独禁法(独占禁止法)違反がどんどん摘発されていて、談合はいけないということが常識化しつつあった時期です。しかし、頑強に残っていたのが官製談合でした。官製談合とは要するに、役所の天下りなど、役所と企業の談合です。役所に言われてやっていることだということで、摘発はまだあまりされていませんでした。その数年後には、官製談合も徹底して摘発されるようになるのですが、当時はまだ談合禁止の初期段階で、官製談合は大手を振って行われていました。

 A社では当時、「コンプライアンスをきちんとしよう」、「これからの時代、談合は駄目だ」ということで、施策を進めていました。そこで持ち上がってきたのが、官製談合の問題です。当時、財団法人の形を取った天下り財団法人X会というものがありました。X会が「今回はA社、いくらでやれ」、「B社、いくらでやれ」「C社、いくらでやれ」と全国の入札を仕切っていたのです。


●談合をやめれば赤字になってしまう


 今から見れば官製談合そのものですし、われわれも当時、官製談合をやめようということになっていました。しかし問題は、官製談合をやめれば、官を敵に回してしまうということです。談合から離脱すれば、入札が取れなくなります。しかもA社では、公共入札が全体の売り上げの4分の1を超える規模でした。X会に対して談合組織から抜けることを宣言すれば、全国の官公庁入札から閉め出されてしまいます。

 会社の中では、侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論になりました。私は会社の顧問弁護士として当然、談合に反対しました。リスク管理としても、今後は官製談合も摘発される時代になるのだから、今すぐにやめておくべきだと主張したのです。しかし、4分の1も売り上げが落ちていいのか、という現実問題があります。営業本部長は、談合をやめれば赤字になってしまうと反論しました。「確かに弁護士の筋論も分かるが、弁護士の本当の腕の見せどころは、摘発されないような上手いやり方をアドバイスすることではないのか」といった話まで出てきました。

 A社側も忌憚のない率直な議論をしていますから、こうした話が出てくるのですが、それでも私はノーと言いました。やめろと言うのが弁護士であり、法律の網をかいくぐるようなことをすればきっと痛い目に遭います。これが法的なアドバイスだと申し上げたのですが、いずれにせよ激しい議論の応酬となり、最終的には社長が決断を下すことになりました。談合をやめるという決断です。


●官製談合の一斉摘発で他社が全滅した


 社長は次のように言いました。

 「私は社長として、常に社員に対してメッセージを出している。ルールに従ったコンプライアンス経営はわが社の基本だ。これまで私は、ルールを守れと言ってきた。X会と付き合うということは、私の言っていることを否定することだ。やはり言ったことは守るというのが企業の第1でなければならない。もちろん、結果として売り上げは確実に落ちるだろう。しかしそれは私の責任だ。私が談合をやめるという決断をしたのだから、それで売り上げが落ちても、誰の責任も問わないし、営業の責任も問わない。その代わり、他の仕事で頑張っていこう」

 これはやはり正しかったと思います。これがコンプライアンスの本質でしょう。

 これは後日談ですが、非常に面白く、また良いエピソードがあります。何度も議論した営業本部長が、後日私のところに来て、「ほっとしました」と言うのです。営業の立場としてあんなことを言ったが、摘発されて捕まったとき家族にどう言えばいいのか、実は悩んでいたらしいのです。「社長が決断したおかげで、やめる踏ん切りがついたし、その分、他でしっかりと頑張るつもりだ」と話してくれました。

 X会との関係を断った結果、確かにA社の売り上げは激減しました。その年の売り上げが3割ほど落ちたのです。翌年になれば何とかなるだろうと思っていたところ、翌年の売り上げも駄目でした。そうすると、次第に辛くなってくることは確かです。営業成績が悪い理由を説明せよと、株主もうるさく言ってきます。しかし、「必ず時代は変わっていく」とA社は我慢し続けました。すると、談合を離脱した3年後、官製談合の一斉摘発で他社が全滅したのです。


●コンプライアンスが将来の発展への原動力になる


 もちろんA社も5~6年前まではX会と付き合いがあったのですから、時効にかからない限り、実際には摘発され得る状...
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