●企業は資源の集合体であり、経営組織である
企業に関しては、エディス・ペンローズという経済学者が、別の角度から大切な指摘をしています。彼女はテンミニッツTVで以前お話した、「ダイナミック・ケイパビリティ」という戦略経営の分野において重要な学者です。
彼女は1959年に『会社成長の理論』を書き、戦略の分野に非常に大きな影響を及ぼしてきました。ロナルド・コースは企業を権限メカニズムとして分析しましたが、彼女によると、企業は資源の集合体、さらには経営組織だということになります。経営組織ですから、経営者は資源配分を行わなければなりません。私たちはよく企業を人・物・金・情報として捉えますが、これは暗黙のうちに、資源の集合体だという見方を共有しているということです。
資源はステイクホルダーと呼ばれる人々から集められます。ステイクホルダーとは、株主や従業員、経営者です。株主は企業に対して資本を提供し、従業員は労働力を提供します。そして、経営者は専門的な経営能力を提供します。こうした形で企業の活動に対して影響を与え、企業の活動からも影響を受ける、そうした主体のことを総括して、ステイクホルダーと呼ぶわけです。
●企業はステイクホルダーの連合体である
青木昌彦教授も企業について考えていました。それは比較制度分析のまさに嚆矢(こうし)となる見解です。1984年の『現代の企業』という著作では、比較制度分析という言葉は使われていませんが、企業や経営者の役割が論じられています。青木教授によれば、企業はステイクホルダーの連合体です。
そこでは経営者の役割は、中立的なコーディネーターです。ステイクホルダーが協力することによって、何らかの便益が生まれます。専門的な用語では「組織準レント」と呼ばれますが、その分配をめぐる交渉の場が企業だというのです。経営者はその分配に当たって交渉役や分配役を果たしているということです。青木教授の研究の非常に面白いところは、経営者がそのような役割を果たした結果、ステイクホルダーの連合体としての企業には、いろいろな形が出てくるということを示した点にあります。
従来の経済学では、株主主権が中心的な考え方でした。株主がレントを非常に多く取るものとして考えられていました。しかし、こうした株主主権の新古典派型に対して、経営者がレントを取るものと考える経...