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比較制度分析を3項目に分解して考える

比較制度分析とは何か(4)「比較」・「制度」・「分析」

谷口和弘
慶應義塾大学商学部教授/南開大学中国コーポレート・ガバナンス研究院招聘教授
情報・テキスト
難解な印象のある比較制度分析を、慶應義塾大学商学部教授の谷口和弘氏が平易に解説する。「比較」・「制度」・「分析」の3項目に分けて捉えることで、比較制度分析の意義が見えてくるだろう。谷口氏によれば、制度とは「何々をすれば、何々だろう」という「If, Then」ルールとして理解できる。(全5話中第4話)
時間:10:33
収録日:2017/11/02
追加日:2018/01/31
≪全文≫

●複数の制度を比べ、その類似性や差異を明らかにする


 難しい言葉もたくさん出てきたところで、もう少し簡単に比較制度分析を説明してみましょう。比較制度分析という言葉を、「比較」・「制度」・「分析」の3つに分解して考えてみたいと思います。

 「比較」とは、複数の制度を比べることで、その間の類似性や差異を明らかにすることです。そこには共時的比較と通時的比較という、2つの見方があります。共時的比較とは、時間を固定して空間の違いに注目することです。例えばシリコンバレーと日本を比べてみましょう。

 シリコンバレーは、もともとサンタクララバレーと呼ばれていたカリフォルニア州の一地域でした。集積回路の技術が発展し、その材料がシリコンであったことから、シリコンバレーと呼ばれるようになりました。スタンフォード大学を中心として、産・学・官が協働して知識を生み出し、イノベーションに取り組む仕組みができてきたわけです。その中で重要な役割を果たしてきたのは、もちろん企業家精神を持ったベンチャーキャピタルです。専門的な知識を持つベンチャーキャピタリストが目利きをし、1度に企業に投資するのではなく、成功度合いに応じて段階的にファイナンスしていくという投資方法も出てきました。

 他方、日本では、メインバンク・システムのように銀行が大量の株を保有しながら融資を行ったり、時には役員を派遣して情報を集め、経営の状況をモニターしてきました。このように、企業組織のどこが似ていて、どこが違うのかを明らかにするのが、共時的な比較です。これは青木昌彦教授がずっと取り組んできたことでした。シリコンバレーの非常に興味深い歴史は、カリフォルニア大学バークレー校のアナリー・サクセニアン教授の『現代の二都物語』という本で扱われています。

 第2の通時的比較は、歴史的な変化を見ていくことです。時間を通じて、あるものがどういうふうに変化・進化していくかに着目するのです。例えば、日本におけるメインバンク・システムがどうやって発展してきたのか。東京大学名誉教授の奥野正寛氏や東京大学経済学部教授の岡崎哲二氏、一橋大学名誉教授の寺西重郎氏といった方が、その歴史的研究を行ってきました。

 例えば、戦時中の資金を集中的に配分する仕組みが、戦後も生き残っていたのではないかという見方があります。メインバンクは他の銀行よりもいろんな情報を持っています。そのためモニタリングを委託され、委託された会社のガバナンスに関わっています。こうした歴史的な変化や進化を見ていくのが、通時的比較です。


●制度は「If, Thenルール」である


 次に「制度」に着目しましょう。制度とは「行動予想+共有知識の公的表象」であり、ルールや予想を含めた広い概念です。人は、相手がどのように行動するのかを予想し、その予想に基づいて自分にとって最適な戦略を選択します。こうした活動が社会で蓄積され、集積された結果が、社会として1つの均衡状態を生むわけです。この均衡状態を表すのに非常に適した概念が、ナッシュ均衡でした。ゲーム理論を用いれば、人々が予想し、戦略を選ぶ中で、社会的にどういった均衡が成り立つのかという流れを説明することができます。

 生成された均衡は、公的表象として表現できます。公的表象があるおかげで、私たちは人々の行動を予想しやすくなったり、どういう行動を取ったらいいのかが文脈に応じて分かりやすくなるのです。例えば、法律として明文化されているおかげで、あるいは交通標識があるおかげで、「ここでは速度は何キロしか出してはいけないのだ」ということが分かります。

 もっと簡単にいえば、制度は「If, Thenルール」です。つまり「何々をすれば、何々だろう」という予想として、制度は存在するのです。例えば、日本では終身雇用制が採用されてきました。これが意味しているのは、「日本の大企業に勤めれば、定年まで勤められるだろう」という期待や予想が、ある程度社会で共有されていたということです。つまり、一つの制度として安定的な状態にあったわけです。

 しかしながらグローバル化の影響で、終身雇用という制度は安定した均衡を揺さぶられています。会社の社長として外国人の経営者がやって来るとか、それによって今までの経営スタイルが変わるということもあるでしょう。終身雇用をやめて、もっと成果に応じて評価するという成果主義も取り入れられています。今までの安定した均衡が揺さぶられ、日本の中でも複数均衡になってきました。これは青木教授の言葉を借りれば、多様性への収斂という現象です。


●一度制度が命を持ってしまうと、それがずっと続いていく


 最後に「分析」です。分析とは、経済システムや企業などという大きなものを、小さなものに分解して、その要素の間の関係性を見る...
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