日本美術論~境界の不在、枠の存在
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
仏像における「具象」と「抽象」の共存
第2話へ進む
日本美術の特徴を示す矛盾した2つの要素とは?
日本美術論~境界の不在、枠の存在(1)具象と抽象の共存
佐藤康宏(東京大学名誉教授)
東京大学大学院人文社会系研究科教授の佐藤康宏氏が、日本美術の特質について、美術史の知識を補足しながら解説する。ヨーロッパや中国では、具象的なものと抽象的なものが区別される傾向にあるが、日本美術にはそうした区別は存在しない。むしろ両者が一つの空間に共存するところに、日本美術の魅力は宿る。(全6話中第1話)
時間:9分56秒
収録日:2017年8月2日
追加日:2018年2月8日
カテゴリー:
≪全文≫

●日本美術にはどういう特色があるのか


 これからお話しする内容は、2014年に行った講演をもとにしています。エコール・ド・プランタン(「春の学校」)という、美術史専攻のヨーロッパの大学院生を主体とした集まりが東京であり、そこで日本美術について40分、英語で話せという求めに応えたものです。サブタイトルがジャン=リュック・ゴダールの映画のタイトル「彼女について私が知っている二、三の事柄」を借りているのは、そういう聴衆を意識していたからです。

 また、そのときの研究会全体のテーマが広い意味での「枠組み」、英語で「frame」、フランス語で「cadre」でしたから、話の後半は枠という問題に関連させた内容になっています。日本美術にあまりなじみのない学生たちを相手にしたこの話は、たぶん、同様に日本美術にあまりなじみのない日本の方々にも向いているのではないかと思います。ここでは日本語で語るとともに、美術史の知識を少し補いながらお話しします。

 主題は、日本美術の特質論、つまりほかの地域の美術と比較して日本美術にはどういう特色があるのかを考えるものです。こういうテーマは、だいたい日本人の美術史家が年を取ってから論じることが多いもので、例えば代表的な著作としてこのような例を挙げることができます。いずれも一読の価値がある書物です。


●日本美術の特質を論じるのは、研究者にとって罠だ


 ただし、日本美術の特質を論じるのは、研究者にとって一つの罠であると言えます。この罠は、日本美術を単純化して見せようとします。「これが日本美術の特徴です」と言いながら学者が何かを差し出すとき、彼女ないし彼は、必ずほかの大事なものを投げ捨てているのです。

 日本美術の特徴については、さまざまなことが言われてきました。例えば、平面的であること、装飾的、感傷的、日常的であること、遊戯性や簡素さなどです。しかし、そういう特徴を指摘した途端に、そうではないさまざまな要素が浮かび上がってきます。果たして、時代やジャンルを貫いて、一つの地域の美術に遍在する固有の性質が、簡単にこれだと言えるものかは甚だ疑問です。つまり、私自身は、日本美術の特色を一般論として論じることについては、あまり大きな意義を認めていません。私たちにできるのは、日本美術のどういう傾向を面白いと考えるか、具体例に即して検証し続けることだと思っています...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
百人一首の和歌(1)謎の多い『百人一首』
『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎
渡部泰明
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
日本画を知る~その技法と見方(1)写実・写意・写生
日本画で大切な「写意」「写生」の深い意味とは?
川嶋渉

人気の講義ランキングTOP10
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(序)時代考証が語る『豊臣兄弟!』の魅力
2026年大河ドラマ『豊臣兄弟!』、秀吉と秀長の実像に迫る
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由
ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想
川出良枝
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治
編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為
葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る
テンミニッツ・アカデミー編集部
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
「進化」への誤解…本当は何か?(1)進化の意味と生物学としての歴史
実は生物の「進化」とは「物事が良くなる」ことではない
長谷川眞理子