●中国はうまく見せることが得意
質問 アジア情勢は近年、非常に大きな変化にさらされていますが、中国の一帯一路政策についてはどうお考えでしょうか。
白石 私の印象では、中国はうまく見せることが得意だと思います。ただし、実際に一帯一路が今後どうなっていくかは分かりません。2013年に習近平国家主席が一帯一路を提案したわけですが、最初はそれまで既に行われていた色々なプロジェクトを集めて、新しいパッケージを打ち出しただけで、やっと2015年後半ぐらいから新しいプロジェクトが入り始めてきました。これは習氏自身が始めたプロジェクトですから、習近平政権が続く間は一帯一路も続くと見ておいた方がいいでしょう。
しかし一帯一路は、実際には1,000を超えるプロジェクトの集合体です。個々のプロジェクトが大きい全体構図の中にどのように当てはまっているのかというと、正直なところ、うまくいっているものもあればそうでないものもあります。ですから、一見するとすごいものに見えますが、実際には、10年後には「この程度だったのか」ということになるのではないかと思っています。
●中国の戦略とはしょせんストーリーである
質問 歴史家エドワード・ルトワック氏は、中国に戦略はないと言っていますが、とはいえ見せ方が上手いということはすごく戦略的だということでしょうか。
白石 戦略というものの捉え方にもよりますが、習近平主席についていえば、それほど精緻な戦略などあり得ないと思います。最近よく言われることですが、戦略とはしょせんストーリーです。習氏が中国の人たちにとってふに落ちるようなことを言うと、今度は反対に中国の人たちの期待も形作られていきます。国がこうしようと思っているのであれば、こう動いてみよう、と。
中国の世界戦略も同様です。同様の視点で中国のプロジェクトを見てみると、本当はあるかどうかは分からないけれど、何かがあるように見えてくるのです。こうしたものが戦略だと、私は最近、考えるようになりました。ですから、その意味でいえば中国に戦略はあるでしょう。
ただし実際問題として、中国の対外プロジェクトの9割以上がコマーシャルベースのローンです。中国輸出入銀行(輸銀)と中国開発銀行が、政策金融としてそれを担っています。ですから、プロジェクトが成功するかどうかはかなり疑問です。ロシアはどうなるか分かりません。恐らく資源で返すということになるでしょうか。パキスタンは恐らくかなりの確率で焦げ付くでしょう。
ですから、一帯一路を威勢よく打ち出してはいますが、10年もたって見ると、大した成果にはなっていない可能性があります。ただし、それでも道路は造られますし、港湾は開発されます。経済的にはペイしなくても、地政学的に非常に大きな意味を持つということは十分にあり得るでしょう。その意味では、やはりインドなどの懸念も理解できます。
●中長期的に見ると一帯一路は不安定だ
白石 シンガポールの友人が先日言っていたのですが、パキスタンのグワダルの港は、もともとはシンガポールが運営していたらしいのです。まったくもうかっていませんでした。そこでパキスタン政府がシンガポールからそれを買い上げて、中国に引き取ってもらったのです。友人はシンガポール人として非常にうれしかったと言っていました。
恐らくビジネスとしてはペイしないでしょう。実際、国際的な貨物船のルートから外れています。したがって、そうするとますます中国は海軍に使うためにグワダルを押さえているということになります。その辺は注視する必要があるでしょう。中国のプロジェクトは、ビジネスの人から見れば、「どうしてこんなところでこんなことを」と不思議に思うことが多々あると聞きます。
ミャンマーの港湾の開発にも中国が携わっていますが、それは今後も継続されるでしょう。ミャンマー政府は特にロヒンギャの問題もあって、恐らく国際的な制裁は避けられないでしょう。特に国家顧問であるアウン・サン・スー・チー氏にとっては大きなダメージです。彼女の威信は地に落ちました。ということで、ミャンマーの国民司令官が中国に行ったり、あるいはスー・チー氏も2017年12月1日に訪中していますが、現地では、中国のプロジェクトを大歓迎しているわけではありません。ですから、やはり中長期的に見ると一帯一路には不安定なところがいくらでもあるでしょう。