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一般人とエリートの価値観や考え方がどんどん離れている

真山仁の社会論(3)価値観の分断とエリートへの不信感

真山仁
小説家
情報・テキスト
エリートと非エリートの間で、今ますます価値観の分断が起こっている。その原因は長らく続いた財政難にあるという。この状況下でわれわれは何ができるのだろうか。小説家・真山仁氏が論じる。(全3話中第3話)
時間:09:48
収録日:2018/04/10
追加日:2018/08/09
≪全文≫

●人脈をつくるためには、明日プラスに働かないことも重要だ


―― 東大生との勉強会で、真山さんが話しているコミュニケーションの方法についてお聞かせください。

真山 「人脈はどうやってつくるのですか」という質問をされることがありますが、人脈を作ろうとして、簡単に次の日すぐできたら誰も困りません。長い時間をかけて、お互いに山あり谷ありの中、相手が谷のときには自分はちゃんと近くにいるぞ、ということを伝え、たとえ自分が忙しくても相手が困っていることが分かったら、その人のために何かすることが人脈を築くうえで重要です。

 疎遠になるかどうかは、人脈づくりとあまり関係がありません。たとえ毎月、あるいは毎晩一緒に飲みに行っている人でも裏切ることはありますから。コミュニケーションのタイミングと、その人と一緒にいるとき、いかに誠心誠意を尽くすかということです。その人が「本当にあなたに助けてほしいんだ」と言える関係かどうかが肝です。

 一方で今の人たちには、自動販売機のように100円、1万円、10万円といったボタンを押したら人脈が出てくるように考えているところがあるのです。だから若い人には、「大事な人とは酒飲んで10年ぐらい付き合え」と言っています。ただ、それが明日からすぐプラスに働くわけではありませんが。


●エリートと非エリートの間で分断が起きている


―― こうした感覚の違いをコミュニケーションという面から考えると、日本語が2つになってしまったという言い方もできますが…。

真山 日本語が2つになっている最大の理由は、エリートが頭で先に結論を出してしまうところにあるでしょう。大事なのはプロセスなのです。でも、「なぜこれが要るのか分かるだろう」とエリートに言われた瞬間に、「分かりません」と言える人は少ない。「分かりません」というのは、「聞く気がありません」と同じだと思われてしまうかもしれないからです。つまり、ひとつのことを共通認識として持って協働していきたい場合に、結果から話す人と出発点から始めたい人がいて、両者は互いの人生観(価値観)が違うため簡単には折り合わないということです。

 それで、例えば「今こういうことが起きています。なので、あなたの立場からすると、こういうふうにして、ここに行かなきゃいけないんですよ。でも、その過程にはいろいろと嫌なこともあるでしょう。だから、われわれは話し合わなければいけないのです」といった、プロセスについての議論がうまくできないのです。


●一般人とエリートの価値観がどんどん離れていっている


真山 それでも昭和の時代は、まだエリートと一般の人の価値観は近かったでしょう。ところが今は、それが完全に離れてしまっています。しかもそのことに気付いていないので、両者が同じような言葉で話しているのに、入口と出口のところで全然つながらなくなってしまいました。本音を言うと、一般の人もエリートもコミュニケーションしたくないのです。

 昔は、といっても昭和の初期のころではありますが、勉強ができるエリートは、運動ができる人と同様にある程度尊敬されていました。「おまえ、頑張って日本を良くしてくれよな」というように。しかし最近、一般の人はエリートに対して「前から俺はおまえが嫌いだったんだ」と思うように変わってしまった。だから、そこにギャップが生まれていて、お互いが本当は嫌いだけど、仕方なく向かいあっている状況なので、そもそも論として話が合うわけがありません。

 しかし、この数十年の間に、そうした価値観のズレが生まれて完全に理解できない状態になったとしたら、どちらかが歩み寄らなければなりません。その場合、エリート側が歩み寄らなければならないでしょう。エリートは自分の言うことを一般の人に聞いてほしいわけですし、数的には一般の人が圧倒的に多いからです。

 一般の多くの日本人は、真面目に働けば、とりあえず楽に暮らせるようにしてほしいと考えているでしょうし、エリートに対しては「お願いだから戦争だけはしないで。大きな災害が来たら助けに来て。あとは何もしなくていいから。ちゃんと税金を払ってあげるから」と思っているでしょう。だから、政治批判などしないのです。それは、自分たちは政治とは関係ないと思っているからです。

 エリートの方は逆に、「いやいや、あなたたちが協力してくれないと、この国はよくならないんだ。何とかしてくれよ」と考えます。こうした考えを一般の人は無責任だ、手前勝手だ、と感じるでしょう。サイレントマジョリティーという言葉を今まで上手に使っておきながら、そのサイレントマジョリティーに「俺たちの言うことに耳を貸せ」と言い出したということだからです。

●今のエリートは身内の外とのコミュニケーションを避けようとする


真山 若い東大卒...
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