テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

高齢世代は若者にチャンス・富・地位を譲るべき

真山仁の経営論(2)「働き方改革」のポイント

真山仁
小説家
情報・テキスト
「働き方改革」と言われて久しいが、現実的には当事者不在の「働かせ方改革」にすぎないと、小説家・真山仁氏は指摘する。いったいどういうことなのか。また、「働き方改革」のポイントはどこにあるのか。真山氏の考えを伺おう。(全3話中第2話)
時間:06:36
収録日:2018/04/10
追加日:2018/08/16
タグ:
キーワード:
≪全文≫

●高齢世代は若者にチャンス・富・地位を譲るべきである


―― 今後、社会に対して高齢者はどのような役割を担うべきなのでしょうか。

真山 高齢者の方々は本当に元気ですよね。元気だからこそ、あるいは元気であれば、むしろ若い人たちに道を譲ってほしいですね。例えば、20代の人たちの後見役になって、「転んだらもう一回チャンスあげるから、この金で1年海外へ行っておいでよ」というような高齢者の方が、なぜ出てこないのだろうと思います。かつて大物政治家のうち3分の1は貧乏で、地元のお金持ちにお金を出してもらって学校へ行ったという話がありますし、企業家の中にもそのような経験を持つ人たちはたくさんいます。そして、成功したらさらに誰かに投資したはずです。

 団塊世代の人たちが皆、お金以外何もないとは言いませんが、自分たちの持っているチャンスや富、地位を、若い人に譲ることによって社会は変わるのだという自覚を持っていて欲しいのです。彼らは(学生運動の時)あれだけ社会を壊そうとした人たちなのですから、なおさらです。


●日本はスクラップ・アンド・ビルドが下手


―― ある種の哲学や宗教観、人としての生き方などを全部放っておきながら社会で中心的存在となり、今もその地位を譲らない状況からして、日本はかなり特殊な国といえそうですね。

真山 日本はスクラップ・アンド・ビルドが下手です。戦争で日本が焼け野原になったことは、ある意味チャンスでもありました。壊されたので、そこから生きるためにつくるしかありませんでした。当時の日本人は一丸となり、大資本家が社会にその利益を還元しました。他方で多くの一般の人たちは、国がそうして還元された利益をさらに国を良くするために投資することに怒りを覚えませんでした。だから、成功したのだと思います。

 このことはモノ(単一)社会における利点だと思いますし、そうしてやってきたことは間違いありませんが、それに違和感を覚えた人たちが昭和40年代の学生運動を行ったと思います。しかし、彼らは自分たちの声を発言したものの、その時の思いを次の世代につなげようとはしませんでした。もし、当時の思いが本物であったのなら、今度は彼らが今「世の中はこれで良いのか」と思っている若い人たちを助けてあげる番ですし、そうした人生の先輩がいなければ、社会はうまく循環していかないでしょう。


●競争社会アメリカにおける社会循環の仕組みは、日本にはない


―― それに対してアメリカでは、スタンフォード大学のように大資本家が大学をつくり、そこに自分の名を付けることもあります。資本主義の歴史が長いため、こうした社会の循環の仕組みがうまくいっているということでしょうか。

真山 そうですね。アメリカは競争社会であり、また自分がやったことを歴史に残したいと考える人も多いのでしょう。後はすごく技術的な話ですが、寄付に対する課税の問題があります。だから、寄付を全て課税しなければ、日本も変わるでしょう。東大に人や企業の名前の付いた校舎が増えてはきましたが、要するにそうした寄付をする人物がなかなかいないのが現実です。

 また、人はなぜ生きるのかを考えるために人生の哲学があるように、企業の哲学も必要です。哲学がないから、経営者が代わるたびにふらふらする。哲学があれば、たとえ不安定な状況になっても必ずそこに戻ることができる。また、「ここはOKだけどここは駄目だろう」という議論ができるのです。つまり、そうした哲学がないから、大きな揺り戻しが起こったりもするわけで、それゆえ、今の社会あるいは今の状態を壊して新しいものを作り直した方が良いと思う人はほとんどいないのです。


●働き方改革は当事者不在の「働かせ方改革」にすぎない


―― 30年ほどで企業が壊れていっている中、補助金を与えて生かすのではなく、完全に潰してしまって人を流動化させていけば、新しいベンチャーが出てくるのではないでしょうか。

真山 結局、今の日本社会は人の流動性が皆無に等しいので、難しいでしょう。「働き方改革」と言われて久しいですが、あれは働き方改革ではなく「働かせ方改革」で、働く人のことを考えていません。今、転職市場で最も活発なのは入社3年目の人たちだそうです。知り合いの若者が私に「転職しようと思ってるんですよ」と言うので、なぜかと聞くと「3年たったので、ちょうど今が変わりどきなんです」と答えました。

 その時、人事担当をやったことのある人も一緒にいたので、「なぜ新卒ではなく3年目に、こんなに注目が集まるのか?」と尋ねると、「彼らはそのあたりでもう諦めてますから」と答えるのです。どういうことかというと、入社3年目ですでに企業に夢も希望も持っていないが、社会人としてのルールは知っているため、企業側としては一番使いやすいということ...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。