●リーマンショックとプーチン大統領の復帰
2008年9月にリーマンショックがありました。この年、ロシアの大統領の任期は当時、まだ4年で2期重ねて8年を過ぎており、3期はできないということで、ウラジーミル・プーチン氏は部下であったドミトリー・メドベージェフ氏を大統領にして自らは首相になりました。
ところが、メドベージェフ氏に代わった途端に先述のリーマンショックが起こったので、この年の経済成長率はマイナス7.9パーセントと相当ひどかったです。しかし、その後、かなり頑張って挽回し、メドベージェフ時代は平均4パーセントの成長率を確保したのです。このメドベージェフ時代にプーチン氏は手を回して憲法改正を行い、大統領の任期を6年にしました。
そして、プーチン氏は、メドベージェフ氏の任期4年が終わると「首相で4年過ぎたから自分が大統領になることができる」ということで進めたのですが、これには全国から批判が噴出しました。モスクワだけではなく、全国で大規模デモが行われたのです。オバマ政権の国務大臣だったヒラリー・クリントン氏が、「これは民主主義的な動きなので支持する」と公言しました。プーチン氏はこのことを非常に根に持っており、ヒラリー氏だけは許さないそうで、要するに、私の地位を脅かすそのような運動を後ろで先導したに違いないと、おそらく本気で信じているのでしょう。
私たちはよく知っていると思いますが、2014年3月にクリミア併合を行いました。これは、武力を持って国境を変えるということですから、1928年に結んだ不戦条約の違反行為です。(不戦条約を結んだ)当時であれば、それに反対する諸国は当然、ロシアに攻撃を加えたでしょうが、その時はそうしたことは行われず、アメリカ主導で一斉に経済制裁を行いました。
おそらくこの時の制裁が非常に強く効いて、2015年、2016年とロシアはマイナス成長となり、経済は縮小しました。2017年になってようやく落ち着きを見せはじめ、経済成長率は1.5パーセントです。
ですから、プーチン政権が第1期、第2期の頃、7パーセントも経済成長を続けた時代に比べると、天国と地獄ほどの差があります。そして2018年3月、プーチン氏は大統領に当選し、第4期のプーチン政権が始まったのです。
●第4期政権の経済戦略~3つの目玉政策~
第3期政権は2012年から2018年の6年間です。これは、つまり憲法改正した後ということですから、第4期政権も6年です。2018年から2024年まで大統領を続けるということになり、通算24年間です。よって、プーチン氏は、スターリンの25年に続く長さになるということで、第4期政権が始まったところです。
まずプーチン氏は大統領令で経済戦略の基本計画を国民に発表しました。主立ったところで目玉が3つあります。
1つは経済成長と経済の安定です。それはどういうことかというと、今ロシアは世界の主要な国々のGDPの中で11番目ですが、それを世界5大経済大国にするということです。韓国やイギリスやブラジルを抜くというのです。大変大きな希望です。ロシアは一見、大国に見えますが、GDPは韓国より少ないという現実があります。それから、インフレがひどいですが、これを4パーセント以下に抑える。成長率については、この第4期を通じて世界の平均以上を達成する、という目標を掲げたわけです。
それから2番目の計画は、人口の増加と国民生活の水準の向上です。どういうことが起きているかというと、ロシアは世界の中でも平均寿命の低い国です。男性は平均寿命67歳で、女性が77歳、両方合わせると72歳です。日本の場合、女性は86歳、男性は80歳ですから、それと比べると低い。72歳の平均寿命を78歳にし、そして2030年までには80歳にすると唱っています。相当、希望的な目標です。
そして、実質所得を持続的に向上させる。年金の伸び率はインフレ以上にする。貧困を半分にする。こういうことを打ち出しましたのですが、これが「私の第4期の公約である」とプーチン氏は言うわけです。
それから、快適な生活環境ということで、住宅環境と自然環境を改善させる。こんなことも言っているわけです。
これができるかどうかですが、実はロシアはいつもこういうことをいっているのです。プーチン政権になってからこの手の長期計画として、2000年に策定した「2010年発展戦略」が第1次、それからプーチン政権第2期が終わる2008年に策定した「第2次2020年発展戦略」が第2次です。その後も、どのような発展戦略や方式がいいかをいろいろと論争しているのです。
いくつもの機関がやっていますが、プーチン氏が一番信じているらしいのは、元財務大臣のアレクセイ・クドリン氏です。この人は戦略策定センターの所長をやっているのですが、おそらく彼の言うことが背景になっているのではないかということで...