軍人皇帝時代のローマ史~ローマ史講座Ⅹ
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帝国立て直しに尽力したデキウスが悪帝である理由
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50年で約70人の皇帝が乱立した軍人皇帝時代
軍人皇帝時代のローマ史~ローマ史講座Ⅹ(1)軍人皇帝の出現と乱立
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
軍人皇帝時代は「3世紀の危機」とも呼ばれている。ローマ皇帝の地位が軍人出身者によって占められ、頻繁に交替した激動の時代である。235年のアレクサンデル・セウェルス暗殺から285年のディオクレティアヌス帝まで、約半世紀のローマ帝国について、東京大学名誉教授の本村凌二氏が語る。(全6話中第1話)
時間:12分38秒
収録日:2018年8月29日
追加日:2019年1月3日
カテゴリー:
≪全文≫

●バルカン半島出身者が多かった軍人皇帝


 アレクサンデル・セウェルスという、セウェルス帝の血脈につながる皇帝は、若くして殺されてしまいます。彼を殺したのがマクシミヌス・トラクス。非常に大男で、身長2メートル以上あったのではないかといわれる人物です。

 彼はアレクサンデル・セウェルスを殺して自分が皇帝になると言い出しますが、元老院貴族から非常に疎んじられます。大男であること、ローマ・イタリアと縁のない貧しい家庭に生まれ、非常に粗野極まりない男であったことから、「あんな野蛮なやつが」とか、「あんな粗野なやつが」と嫌われたわけです。

 ローマ皇帝というと、皆さんは当然ローマやイタリア出身の皇帝が多いだろうと思われるでしょう。前にも言ったように、正式なローマ皇帝は、元老院からその地位を認められる必要があり、そのような人がアウグストゥスから始まって77人を数えます。その中では、ローマ・イタリア出身の皇帝を押さえて、バルカン半島の出身者が一番多く、77人中24人がバルカン半島の出身者です。

 なぜバルカン半島なのか。実は、バルカン半島出身皇帝の多くは、紀元3世紀のいわゆる「軍人皇帝」といわれる時代に集中しています。3世紀の軍人皇帝の時代にバルカン半島の出身者が多く皇帝として出てきたのには、軍事ラインの関係があります。


●自称を含め、50年で約70人の皇帝が乱立した時代


 ローマ帝国の北方では、ゲルマン民族が国境の向こうから機をうかがっています。彼らに対処するため、ライン川・ドナウ川方面を北方戦線として、軍団を配置していました。また、東方にはパルティアという古くからの勢力がいます。ペルシャ・イラン系の人々ですが、当時はパルティアと呼ばれていました。彼らとも戦いを繰り広げます。

 つまり、北方戦線ではゲルマン民族と、東方戦線ではパルティアと戦うために、常にそれらの方面に軍隊の多くを配属させることになりました。そのため、北方戦線や東方戦線で軍功を挙げ、軍事的な勝利を収めた軍人が軍団の中で声望を集めます。そのような者たちが皇帝に祭り上げられるという繰り返しがありました。その結果、77人のローマ全皇帝のうちの26人ほどが「正式」な軍人皇帝ということになります。

 「正式」とわざわざ言ったのは、元老院によって公認されていない「正式でない」皇帝もいたからです。その中には、軍団から祭...

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