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不可視のブラックホールをどのように検出するのか?

ブラックホールとは何か(5)野良ブラックホールの検出

岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
情報・テキスト
天の川銀河の中には、すでに認識されているブラックホール以外にも膨大な数のブラックホールが存在するという。ただ、そのほとんどは単独で存在し不可視であるため、検出は難しい。そのため、銀河中に広がるガスの運動を観察することで、見えないブラックホールの間接的な検出を目指してきた。(全8話中第5話)
時間:11:26
収録日:2018/10/31
追加日:2019/04/23
カテゴリー:
≪全文≫

●すでに認識されたブラックホール候補天体


 現在、私たちの住んでいる銀河系(=天の川銀河)の中で、「ブラックホール候補天体」と呼ばれるものは、約60個認識されています。X線の全天写真では、ぽちぽちといくつも点状に見えるのですが、その多くがブラックホール候補天体として認識されています。

 これらのブラックホール候補天体の位置を、銀河系(=天の川銀河)を上から見たイメージに重ねてみると、このような分布をしていて、観測的な事情から太陽系に近い側に多く分布して見えますが、60個ほど見つかっています。これらは全て近接連星系で、伴星からの質量降着によって重力エネルギーを介し、まばゆく輝いているX線天体です。


●理論上のブラックホールの数と野良ブラックホールの存在


 一方で、理論計算からは、銀河系(=天の川銀河)の中にあるブラックホールの総数は1億個から10億個であると評価されています。これは当然の話です。最初に銀河系(=天の川銀河)の中にある恒星の総数は2000億から4000億個と申し上げました。星の質量には分布があり、軽い星は多く生まれ、重い星は少なく生まれます。これは確率事象であり、軽い星が何千億個もあれば、重い星はその100分の1程度あります。そのため、銀河系(=天の川銀河)の中で今現在までに生成されたブラックホールの総数は、簡単なモデルで計算することができます。ゆえに1億から10億個というのは、幅は大きいのですが、間違いの可能性が少ない数字です。

 ここからいえることは、ほとんどのブラックホールは見つかっていない、つまり見えていないということです。なぜ見えていないかというと、それらのブラックホールは近接連星系になく、おそらくは単独で浮遊するブラックホールだからです。ひもでつながれていないという意味で、私たちはそれを「野良ブラックホール」と呼んでいます。銀河系(=天の川銀河)の中には無数の野良ブラックホールがあるということです。

 ではそのような野良ブラックホールは、検出することができないのでしょうか。それを考えるのが私たちの課題です。


●野良ブラックホールをいかに検出するか


 この野良ブラックホールは、基本的に見ることができません。ブラックホールは基本的に真っ暗ですから、何かがなければ見えません。近接連星系の場合、質量降着があり、ガスが重力エネルギーを解放するため輝いて見えるのですが、野良ブラックホールの場合、単独であるため見えません。

 ただ全くの偶然に、私たちはあるものを見つけました。それを紹介します。

 画面右下の画像のような天体があります。梅干しのような形をしているのですが、これは電波の写真です。この電波の写真で示したものは、「超新星残骸W44」と呼ばれる天体です。太陽系から1万光年程度の距離にある天体で、年齢は6500年から2万5000年ぐらいだろうといわれています。種別からすると、II型超新星爆発の残骸ということです。詳しい話はさておき、私たちはこれを長い間研究してきました。

 何を研究していたかというと、超新星残骸W44に付随するガスの雲です。超新星残骸W44は、隣に分子ガスの固まりがあります。そのガスの固まりに超新星残骸がぶつかっているという状況が実現されています。そのため、超新星残骸が膨張し、ガスを押しのけていくさまが見えるのです。

 画面右側にカラーの方はガスの分布で、白黒の方は先ほどお見せした電波の写真です。このガスは、この超新星残骸に押しのけられ、圧縮されて少し高温にもなっています。そのため押しのけられたところが明るく見えています。こうしたことから、上の2つ(a,c)は似たような形をしています。

 私たちが念入りに調べたのは、このガスの運動です。それを示したのが右端の真ん中の図(d)です。少し難しい図ですが、横軸は空間的な位置で、縦軸は視線方向の速度を示しており、この上の図(c)の赤の十字のところを横に切った図です。

 このガスの分布は、分子ガスが放つスペクトル線を見て観測するのですが、スペクトル線は、そもそも放つ周波数が決まっています。ただし、その放つガスが私たちに対して遠ざかっていたり近づいていたりすると、その周波数がずれるのです。これを「ドップラー効果」といいます。救急車と同じですね。光にもそれがあります。

 このドップラー効果を利用して、ガスの運動を観測することができます。それを示したのが下の図です。私たちが調べようとしていたのは、超新星残骸によって押しのけられたガスの運動です。実際にガスは、超新星残骸...
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