●地球がブラックホールに飲み込まれることはまずあり得ない
―― 地球がブラックホールに吸い込まれることはあり得ないのでしょうか。
岡 ブラックホールに地球が吸い込まれるかというご懸念に関しては、「まず大丈夫だ」と答えられると思います。というのは、今のところ、地球のすぐそばにブラックホールはないからです。
またブラックホールがあったからといって、必ずしも吸い込まれるとは限りません。例えば、太陽は地球を引き寄せていますが、吸い込むことはありません。地球は太陽の周りを回っていますが、これはケプラー運動として非常に安定しています。地球はその軌道での運動をずっと続けているのですが、ブラックホールの周りも同様なのです。
そのため、地球がよほど真正面からブラックホールに迫らない限り、ブラックホールに吸い込まれることはありません。向こうからやってきた場合は危ないかもしれませんが、それほど密度は高くないため、その可能性は非常に低いのです。
偶然当たる確率も、おそらく計算することはできますが、少しだけ「かする」程度であれば、全然問題ありません。問題になるのは、ブラックホールの半径の3倍よりも内側に入ってしまった場合です。そこから内側に入ってしまうと、吸い込まれてしまいます。逆にいえば、そこに入らなければ大丈夫です。
ブラックホールの半径は「シュワルツシルト半径」といわれており、ブラックホールの質量に比例します。例えば、銀河系(=天の川銀河)の中心核にある、いて座A*のブラックホールは400万太陽質量であり、そのシュワルツシルト半径は約0.1天文単位であるとされています。太陽から地球の間の10分の1ほどです。
地球が400万太陽質量のブラックホールに吸い込まれるとすれば、この3倍(0.3天文単位)よりも内側に入ってしまったケースです。ただ、まずないでしょう。
●ブラックホールが星を吸い込むと、輝きを放つのか
―― ブラックホールが星を吸い込んだ際、輝きを放つのですか。
岡 輝くことは十分考えられます。ただ、そのときにどうやってその重力エネルギーを解放するかというのが問題です。いて座A*に落ちていく雲の例で分かったのは、これが非常に難しいということです。雲が落ちていくことで輝くだろうと思っていたら、全く何も起きなかったからです。
今の理解では輝いて欲しいというところですが、何とも言えないですね。
●野良ブラックホールに吸い込まれそうなら間接的に観測できるかも
―― 野良ブラックホールが近づいてきても、人類はそれに気付かず、ある日吸い込まれているという可能性もあるのでしょうか。
岡 ありますね。「あっ」みたいな感じで、あると思います。しかし、ブラックホールの中に入った人はいるのかもしれませんが、出てきていないので、どうなっているのかは誰も知りません。出てくることができて、「こうでしたよ」と言ってくれる人がいれば良いのですが、今のところいません。
ただ、何か間接的な方法で「変なものが近づいているぞ」ということが分かれば、吸い込まれている状況を認識できるかもしれません。例えば、「最近、火星の軌道、ゆがんでいない?」とか、間接的な証拠で何かが来ていることが分かれば、ひょっとしたら対処のしようがあるのかもしれません。対処のしようといっても、逃げるぐらいしかありませんが。どうやって逃げましょうかね(笑)。
●ブラックホールに近づくと、外よりも時間の流れが遅くなる
―― ブラックホールに入ると時間が遅くなり、スローモーションのようになるという話を聞いたことがありますが、本当でしょうか。
岡 そうですね。一般相対論の式をそのまま信じるとそうなります。しかし、ブラックホールについていえば、そのあたりがとても難しい問題になります。
ブラックホールに近づけば近づくほど、時間の流れが遅くなるのは確かです。しかしそれは、ブラックホールから離れたところに比べての話です。そのため、そこにいる本人は多分感じないでしょう。ただその間に、外の世界でものすごく時間が進んでいることになります。
確か映画の『インターステラー』でもありましたよね。ブラックホールに近づいて、少し作業して帰ると、地球ではもう何100年もたっているというような状況です。ただ、ブラックホールの中は、難しいですね、想像もつきません。
●地球が最後を迎えるのは、太陽が赤色巨星化する50億年後
―― 地球が最後を迎えたらどうなるのでしょうか。
岡 「地球が最後を迎える」というのは、「地球が崩壊することがある」ということですかね。地球自体は安定しているので、それだけで崩壊することはありません。
ただ、外的要因で崩壊することはあり得ます。例えば、ブラックホールが降ってくるというようなこと...