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2018年に西日本豪雨をもたらした二つの要因

異常気象を分析する(2)西日本豪雨二つの要因

中村尚
東京大学 先端科学技術研究センター 副所長・教授
情報・テキスト
2018年の西日本豪雨はどのような原因によって発生したのか。今回の講義では、2つの原因から西日本豪雨が説明されるとともに、それをグローバルな気候の構造に位置づけて解説する。(全5話中第2話)
時間:11:33
収録日:2019/03/26
追加日:2019/07/30
タグ:
≪全文≫

●西日本豪雨の要因1:熱帯由来の水蒸気と日本周辺海域における蒸発


 前回お話しした2018年の西日本豪雨をもたらしたその雨の源はもちろん、熱帯から運ばれてくる多量の水蒸気です。ではそれがどの程度だったかということが、上の資料で示されています。以前に数値天気予報について説明した時に触れましたが、われわれには大気の歴史をずっと記録した数値データがあります。これらを「再解析データ」と呼ぶのですが、それが過去60年分ありますので、それを見ていきます。

 右上の図は、1月から12月における、四国の南海上を通過した水蒸気の量、つまり輸送量を表しています。ここで、灰色の線が各年の数値を示していて、赤い線が2018年の数値を表しています。また、緑の線が平年値になります。これを見ますと、文字通りの最大ではないですが、過去最大級の量の水蒸気が運ばれています。

 このように熱帯から運ばれてきた水蒸気が、収束することによって雨になるわけです。その収束量が西日本上空でどうだったかというと、これはデータ上、圧倒的な1位です。これはつまり、熱帯から運ばれてきた大量の水蒸気がそこで雨となるような、そういった状態が非常に顕著であったということを意味します。これはなぜかといえば、梅雨前線がそこに停滞していたからです。

 これには実は、熱帯からだけではなくて、日本周辺の黒潮域からの蒸発も寄与しています。

 それが上の資料なのですが、これはメソ予報のデータを使ったものです。つまり、より細かい場が分かるものです。これらは海からの蒸発量と海上風の偏差、つまり平年からのずれを表しています。緑の破線が梅雨前線ですが、この梅雨前線に吹き込むように2つの強い気流があることが分かります。東シナ海南部から吹き込む流れと、太平洋高気圧のへりを回るように南から吹き込む風、その2つの気流がこの西日本で合流してることが分かります。

 図の赤い部分は普段に比べて蒸発が多いところですが、梅雨前線に流れ込む気流の下で蒸発が普段よりも多いことが分かります。それだけ海からの水蒸気が供給されていることが分かります。また、オホーツク海からの高気圧も強くて、日本海でも実は、強い北東風に伴って蒸発が非常に多くなっていました。ただ、これがどこまで影響したかはまだ定かではありません。

 それでは、この蒸発がどのような要因で増えたかということですが、四国沖から南西諸島、それから東シナ海の南部にかけては、これは風が強くなっていました。それによって、暖かい黒潮の上からの蒸発が促された、これが一番の要因であるといえます。

 他方で四国の紀伊半島の沖から東海沖にかけて、あるいはそのさらに南では、風も強かったのですが、水温自体が平年よりも高い状態でした。それによっても蒸発量が増えました。こういった2つの影響が重なったことが、この解析から明らかになっています。


●西日本豪雨の要因2:梅雨前線の停滞


 このように、多くの水蒸気が運ばれてきたのに加えて、蒸発も多かったというのが西日本豪雨の第1の理由です。西日本豪雨の被害を甚大化させたもう1つの要因は、梅雨前線が停滞し続けたことです。これは、同じような場所で水蒸気の収束が続いて、雨が降りやすい状況をつくりました。

 これを時系列で見たのが上の資料です。これは7月の4日から9日までの推移を表していますが、関東ではもう梅雨明けしています。ここで、普段は梅雨がない北海道に実は、梅雨前線が掛かっていて、この前日の3日には記録的な豪雨が降り、被害が出ています。この図を見ると、台風が1つ、日本海を抜けていき、温帯低気圧になっています。そして同時に、北にあるオホーツク海の高気圧が、ほぼ同じ位置で急に強くなっています。これは、前にジェット気流の蛇行に関する講義で説明した、Rossby波によるものです。これは、移動してきているわけではありません。

 そして、オホーツク海高気圧が発達することに伴って、梅雨前線が6日にかけて北海道から南下してきます。仮にこのまま南下して過ぎてしまえば、豪雨はいったん休止するわけです。しかし、6日あたりから南の太平洋高気圧が再び強くなってきました。それによって、梅雨前線を押しとどめてしまいました。そうなると、その上にメソ低気圧が発生して、さらに上昇流と南風を強めることになりました。それが7日の出来事です。

 梅雨前線はその後、さらに北上して梅雨明けになり、その後の猛暑につながった、そういう時系列です。前にジェット気流の蛇行のところで説明しましたが、豪雨になりやすい場所ですが、西側に上空...
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