●日本の家の耐久性と「200年住宅」
会社を辞めた後、私はしばらく頭を冷やしていました。2年ほどして気が付いたのは、日本の家の耐久性が短いことです。平均で26年といわれていますが、アメリカが45年、イギリスはたしか75年ぐらいだったと思います(出典は平成8年「建設白書」)。
いいかえれば、日本の家は20年たつとタダになってしまうということです。中古で入手するともっとひどく、10年でタダになることもあるわけです。これは一般論ですから、ミサワホームとしてはそうならないように作ってきました。しかし、これは是正しなければいけないところです。
住宅の寿命を長くするにはどうすればいいか。200年を基準にして全国で調べてみると、200年以上の古民家はまだまだ健在で一番古いものは神戸の「千年家」で、ダム建設のため移築されていますが、ほぼ1000年経っています。200年住宅自体は全国のどこにでもある。つまり、そういう技術は確立されていたということです。
海外でも調べてみましたが、海外にもやはり古民家が多く残っています。一番古いのがフランスで、築700年の家がありました。イギリスでは500年、ドイツでは350年ぐらいの家がたくさんあります。歴史がないといわれるアメリカにも200年住宅はありました。
このように、やればできるということが分かったものですから、私は「200年住宅」を標榜して仕事を始めました。
●自民党の『200年住宅ビジョン』と「長期優良住宅」
ちょうどご縁があって裏千家の初釜式にうかがったところ、当時まだ官房長官だった福田(康夫)氏にお会いしました。初釜が始まる前には、なんとなく名刺交換などでぶらぶらする時間があるので、「200年住宅で耐用年数の長い家を作ろうと思う」という話を福田氏にすると、「ああ、それはいい。国民が豊かになる話ですね」と言われました。それはその通りで、家がどんどん償却してしまうにつれ、持ち主は貧乏になります。福田氏は「国民が豊かになる」と賛成してくれました。
その後しばらくして福田氏は総理大臣に就任されました。就任演説に「200年住宅が必要だ」という言葉が入りましたので、お礼を言うと「アメリカ歴代大統領の就任演説には、必ず住宅政策のことが入っている。日本の総理大臣就任演説には入っていなかった」という言葉が返ってきました。福田氏はアメリカでの生活経験がありますから、「自分は、三澤さんから200年住宅のことを聞いたので、政策提言として入れた」と言われました。
順番としては、福田内閣発足前の2007年5月に自民党の住宅土地調査会(福田康夫会長)が『200年住宅ビジョン』と題するレポートをまとめていました。ただ、「200年住宅」自体はミサワが言い出していたこともあり、制度としては「長期優良住宅」という名前で正式に発令されました(平成20年12月法律、21年2月政令、省令)。
●「買ってはいけない」家の多すぎる日本の現状
2年間にわたり民間からいろいろアイデアを集め、そのうち3パーセントほどが採択された勘定でしょうか。「長期優良住宅」の制度ができ、当初5年ぐらいは補助金付きでスタートしました。その結果、現在では一戸建て住宅の3分の1が長期優良住宅になりました。
考えてみると、戦後にデベロッパーやハウスメーカーなど、大きい会社が続々とできましたが、それでお客さまはみな損をしたわけです。20年しかもたない家を35年ローンで買わされて、家が駄目になっているのにローンは継続して返済しているわけです。
そういうところをばっさり書いたのが、「日経ビジネス」の2年前の16ページの特集で「日本の家、耐久性20年、500兆円の損失」と銘打ってあります(日経ビジネス2016年2月22日号No.1829「シリーズ日本が危ない 家の寿命は20年 消えた500兆円のワケ」)。
誰が悪いかというと、「三位一体」の罪になります。三位というのは行政と銀行と業者です。要するに行政がちゃんと指導ができておらず、銀行は長いローンを付けて買いやすくし、業者は新築がもうかるのでどんどん新築を建てるということです。16ページの特集でしたが、外国の例なども引いて、よく書けたものになっていました。
●住み替えのときに「損をしない」家にするには
「長期優良住宅」は今、普及している最中です。私がこれから手がけたいのは、お客さまが損をしないにはどうするかという話を広めることです。
例えばアメリカではそうなっていますが、土地さえあれば、小学校の6年間住んだ家から出ていくときには、大体2~3割高く売れるのです。あるいは幼稚園から小学校まで12年住んでも、出ていくときは高く売れる。買った家が中古になって損をするのは日本だけの話なのです。それは業者が悪いところです。
具体的にいうと、不動産の「重要事項説明」が問題です。...