●93歳のペレス元大統領が「未来から学んでいる」
小林:イスラエルの話が出ましたが、2016年にイスラエルのテルアビブに行ったときに、シモン・ペレス元大統領に会えました。彼が亡くなる直前、彼がつくった平和財団に招かれて30分くらい会ったのです。
そのとき、シモン・ペレスが「自分は未来から学ぶのだ」とおっしゃった。実際にその時も、ウーバーなどのシェアリングエコノミーやAIなどの話しかしない。
当時、彼は93歳でした。私が間違えて「90歳くらいですね」と聞くと、「いや違う、93歳だ」とおっしゃるので、長生きをすると、1歳、1歳が重要なのだと思いました。
それで、本当に先の話しかしなかった。もちろん、自身がキブツ出身で、フランスやイギリスから兵器をもらいながら、あの当時、アラブに囲まれて、ベドウィンなどアラブの人たちと戦ってきた話は少しされました。私がイスラエルにいたときも、300万のイスラエル人が、3億以上のアラブ人に囲まれて戦っていたわけです。ほとんど100倍ですよね。
シモン・ペレスは、「農業をやるのに水がどれほど大切か」という話も少ししましたが、ほとんどが21世紀的な話でした。「データがすべてを制する」という話もしていました。
イスラエルの歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリが、「キャピタリズムの時代がおわって、データイズムの時代だ」といっていますが、それに近いことを93歳の老人がいっていました。しかも、まさに、そうなっていますよね。
―― すごい人ですね。軍人だし、政治家ですが、それがイノベーションや経済に対して、それこまで言及していたのはすごいですね。
小林:時代感性というか、時代の風に対してものすごく敏感です。常に情報を得ている。そこは見上げたものです。8200部隊などもそうですが、国を守るという意識も大きいのではないでしょうか。
―― 日本でいえば、明治維新後、明治維新をやった長老が、まだ生きているようなものですね。
小林:そうですね。そこへ行くと、日本全体が、なんとなく骨がない。政治家も、経済人も、なんとなく存在感がふにゃふにゃですよね。そうかと思えば、変にしっかりしているのは、極端な右翼的言論を弄したりする。
結局は、自分さえよければ、今さえよければ、ということが見えてしまう。
もう少し、国家百年の計を考えながら、人間の原点は何か、人とは何か、日本はどうあるべきかを考える。そういう書生っぽさを感じる人が今、あまりいないのではないですか。
―― 自分なりの人間観を持っている人がいないですね。哲学、歴史、文学小説が過去のものになっている感じがあります。
小林:すごく違う気がするのです。アメリカや中国では、アリババのジャック・マーさんにしても、シリコンバレーのスティーブ・ジョブズにしても、TEDなどの発言を聞いてみたり、講演の中味を見たりすると、すごく自分自身の哲学を持っています。かなり強烈な自分を持っています。
―― グーグルのシュミットもそうですが、自分なりの哲学を持っていますね。
小林:自分の哲学を強烈に持っていて、そこを深く掘っています。そういうものが、日本では、どうしてここまで減ってしまったのか、というのが実感です。
●社会主義的社会で堕落してしまった日本人をどう変えるか?
―― あまりに安全で快適で、大して努力しなくとも良い飯を食える状況を、結果として高度成長とともにつくってしまったら、ここまで人間とは堕落するのかということですね。
小林:そういうことじゃないでしょうか。GHQが来て、日本を社会主義的な社会にした。平等という意味では素晴らしいけれども、個性を重んじるというより、小学校の運動会でテープを一緒に切るなどということをやったら、これはまずい。
機会の平等はわかるけれども、最終的にはある程度の競争社会で、分配は一定程度リーズナブルに平等にする。そういう社会をつくらなければだめでしょう。
―― 最初に社会主義的な社会をつくろうとしたところで、人間の本性の取り違いをしたのではないでしょうか。
小林:人間の本性は、やはり「競争」ではないでしょうか。だから燃えるのではないか。そういうのを完全に潰してしまってはまずいですね。今後どうしたらいいのかは、最大のテーマですね。
だから、そういう意味では、企業のコーポレートガバナンスも、形はできてきた。社外取締役が2人以上いる会社が90%以上になっています。しかし、やはり中味が伴っていない。だからこそ最近ですと、オリンパスや東芝などの問題が起きています。
逆に、ニューヨークなりケイマン諸島なりに社を構える、かつてはハゲタカとかアクティビストといわれたようなファンドの人たちが、基本的には自分の利益を考えるにせよ、けっこうロングタームで考えるように...