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「儲からないものは捨てる」では今の時代は成り立たない

茹でガエル日本への処方箋(4)「社会性」を数値化する

小林喜光
東京電力ホールディングス株式会社 取締役会長
情報・テキスト
「企業活動」と「社会性」をどう両立させるか。かなうことならば、ぜひ「社会性」も数値化して判断したい。儲からなくても、やらなければならぬことはやらなければならない。だが一方で、儲からない仕組みを放置してもいけない。未来のために、何ができるか。そこを考え抜くことが大切なのである。(全5話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:14:50
収録日:2019/05/14
追加日:2019/08/26
≪全文≫

●それでも「サステナビリティ」に関連するものはやりつづける


―― 「公益資本主義」を唱える、原丈人さんは?

小林:昔、けっこういろいろ議論しましたよ。基本的には(公益資本主義を)、なんとか数値化したいのですが、数値化はそう簡単にいかないですね。

 私は3軸経営【※注、(1)「MOS(サステナビリティの向上をめざす経営/Management of Sustainability)」、(2)「MOT(イノベーション創出を追求する経営/Management of Technology)」、(3)「MOE(資本の効率化を重視する経営/Management of Economics)」】ということをいっていますが、MOEは簿記で表現できる。キャッシュフローであり、バランスシートであり、プロフィット&ロスであり、全部数字で表現できる。MOTもそこそこ、わが社でも数値化して導入しようとしている。

 原さんのいう公益資本主義、私のいうMOSや、Z軸というか社会性の軸は、これを定量化するのが、まだまだ大きなテーマだと思います。

 サステナビリティという意味でいえば、国家も同じです。GDP(富)を増やしていく部分と、アフリカを含めフロンティアを開発し、また、テクノロジーのフロンティアを開発していき、それで社会を変えていくという意味合いがあります。もう一つ、Z軸というのは、財政の健全化、あるいは安全保障、あるいは教育、ありとあらゆる持続可能性ですよね。これも、やはりX(GDP)は数値で出てくる。この数値も、かなりいい加減に「名目3.0パーセント、実質2.0パーセント」「こんなに成長するからお金を使おう」などとやっている人もいますが、少なくとも数値化できる。Y軸もできる。しかしZ軸は難しい。財政の健全化はかなり数値化できますが、今回の消費税も、非常に政治的なファクターが多い。防衛もしかり。あるいは社会性という意味で、いちばん明確であるCO2の削減もしかり。

 いま最大の課題は、原さんのいう公益資本主義、僕のいうMOSの「定量化」だと思うのです。はっきりと差を明確にしていく。

 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などは石炭火力は使うなといい、金融系のイングランド銀行なども、石炭火力をやったら投資しないなどといってくる。また、海中のプラスチックデブリをどう回収するかということもあれば、新たなプラスチックはもう、どんどんは作らないということもある。そのようなものを、定量的なところで規制していく。こういうことが重要ではないかと思います。

 原さんのいう公益資本主義は、自分が会社経営をしながら、その経営そのものが社会のためになるという理想だと思います。彼は「社中」といって、会社は株主のためにあるのでなく、あくまでステークホルダーのため、それも社員であり、地域社会であり、社会のためにあるという。さらにいえば、地球でさえステークホルダーかもしれない。

 こんなに地球が悲鳴をあげて、温暖化している状況がある。人間が滅びる要因は、地球温暖化と海水のデブリと、生態系の乱れかもしれない。生物多様性という意味では昆虫ももう4割くらいしか残っていない。そこはやはり変えながら事業活動をやらないと、失格だと思います。ちょっと回して儲かったレベルで喜んでいてはいけないと。

 私たちは化学会社として、CO2そのものをカーボン源にするとか、光合成のまねをするとか、カーボンのストレージ、CCSだけではなく、カーボンのユーティリゼーションをやるべきではないかと十何年前から考えて、研究開発もやっています。あるいは、カーボンファイバーコンポジットは、作るときにはCO2を排出するのですが、軽い部材なので、重い部材を使った自動車より、たとえば7割くらいに軽くなれば、ガソリンの使用量が大幅に減るわけです。ライフサイクルアナリシスをすれば、結果としてカーボンファイバーはエネルギーのコンサンプション(消費)低下に役に立ちます。

 ありとあらゆるそういうものを十何年やり続けていて、一向に儲からないのですが(笑)。5G向けのガリウムナイトライドも、毎月2億の赤字を続けながら、カーボンファイバーも40年くらいやりながら、いまだに赤字なのです。リチウムイオンバッテリーの電解液だけはかろうじて利益は出ていますが。

 サステナビリティに関連すること、原さんのいう公益資本主義的なことをやっているのは、ほとんど赤字です。しかし、それをやり続けなければいけないと思うのです。資本効率が悪く、儲からないものはみんな捨てるというのは、今の時代は成り立たない。

 いまどき、日本人はSDGsのバッジを付けておられるけれども、国連が2015年の秋に批准してバッジをつけ出すと、なぜ同じバッジをつけるのですか。つけるのは結構ですが、やたらつけているのは日本人だけです。

 あるジャーナリストからおもしろいことを聞きました。ニューヨーク...
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