●「優秀な人の給与水準」があまりに低すぎる
―― 財務省の主計局もかわいそうなのは、とりあえず2~3年で変わるから、たまたまなって、半年間くらい猛烈に勉強して、それで転がすので、そのやり方では頭のいい人もロングランで考えられない。くるくる回されていったら。もったいないですよね。良い人材はいるはずなのですが。
小林:いまや、東大法学部を出ても、財務省になかなか行かない。行くのは、アクセンチュアなどといった海外のコンサルティング。日本ではせいぜい商社にしか行かないという。何か、次を暗示していますよね。
やはり優秀な人間は日本の政策に関与してほしいですよね。
―― それが結局、国民のために一番なりますよね。
小林:なると思うのです。これでは先行き危ないのではないかと思います。
もう一つ、コンペンセーションプランというか、企業の報酬体系ですが、日本の大企業の経営者の平均が1億円強、アメリカが14億円。大体10倍以上ですね。だから、日本のコーポレートガバナンスも、報酬をもっと上げるべきだと海外の方々もいいます。そうすれば、もっと、その気になるだろうと。
しかし逆に一方では、事務次官が二千数百万円。大学教授が優秀な人も、たいして優秀でない方も一千万円ちょっとではないですか。そういう社会のなかで、民間の社長だけがそんなにもらっていいのか。ここもすごく大きな問題だと思います。
AIの時代に、統計とかデータをきちんと解析できるスペシャリストを、アメリカなり国内でも優秀な人を取ろうとしたら、4000万円から5000万円出さないと来てくれないですよね、向こうの人は。1000万円では、ロクな人が来てくれませんよ。無理でしょう。そういうことを、もっと本当に真剣に考えないと。
―― 防衛省が、いくらサイバーセキュリティユニットをつくろうとしても、資格をつくれないから、ようやく尉官と並べるくらいでは来ないですよね。
小林:来ないと思いますよ。たとえば、イスラエルの優秀な人間を何人かリクルートしようと思っても無理です。アメリカへ行って、平気で一億円くらいもらっているわけですから。グーグルの初任給が2000万円~3000万円の時代に、日本の大学教授が1000万円というのは、無理というものです。シンガポールの官僚でも1億くらいもらっているじゃないですか。民間の社長、CEOの給与が安いという以前に、日本の総理大臣が3000万円くらいしかもらわないという状況、これも相当な問題だと思いますよ。
―― これ以上、パブリックセクターを安く抑えるというのは、かえって誤りますよね。
小林:そのような気がします。その代わり、できる人とできない人は、もっとはっきり区別しないと。そうするとまた「平等じゃない」というようなことを言いますが、それは結果の差なのですから。
―― キャリアのなかでも、一軍、二軍、三軍といまは一応分かれていますが、給与は年次でやるからほぼ同じです。
小林:出世の早さだけは違いますがね。この時代に、そこももう限界に来ているような気がします。中国などは、全然大きな差ですからね。
―― 中国共産党は、なんだかんだいっても、一番やる気がある人間が集まっていますよね。あれを見ていたときに、本来、2億円くらいもらえる人が、定年まで勤めて2300万円だったら、やらないですよね。
小林:「武士は食わねど高楊枝、学者も霞(かすみ)を食って生きるんだ」などという明治以来のメンタリティを変えていかないと。このグローバルの競争社会では、理念はいいのですが、非常に難しいような気がします。社会全体を底上げしないと。みんなが霞を食って、みんなが我慢してしまっているのが日本だと思います。それでメンタリティは茹でガエルだと。
―― たしかにそうですよね。特に霞が関はいちばん割を食った、東大の先生もいちばん割を食った。年齢×20万円ではやってられないですよね。
小林:たまたま民間セクターに来て、たまたま社長になった人が、そういう人たちの10倍、20倍取るというのは、やはり変ですよ、これは逆に。
―― たしかにそれだと、余計にギクシャクするでしょう。全体の底上げをやらないかぎり回らないですね。
●いかにして経済社会システムをもう一回、設計しなおすか
小林:この前、早稲田会議というものがありまして、日本のコーポレ-トガバナンスと報酬というテーマで議論しました。海外からは「上げろ、上げろ」といわれる。相対的に、日本とアメリカのあいだがヨーロッパで、日本は十分の一。これではインセンティブがまったく働かない。そういうことを経営者の中だけで議論しているのです。
しかし、ちょっと待ってくれ、と思いました。この国にいるCEOという立場で考えていかないと、先ほどの農耕民族の文化文明がありますから、簡単に経営者だけを...