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元徴用工に対する個人補償問題の背景と現状

悪化する日韓関係(2)よみがえる徴用工補償問題

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
概要・テキスト
前回提示された3つの問題のうち、今回は徴用工補償問題を取り上げる。この問題に関しては、1965年の日韓基本条約で一応の解決を見ている。しかし、韓国司法は2010年代に入って徴用工個人の請求権を認める判決を出し始め、韓国政府もこれに同調している。しかし、日本側は一度外交的な解決を見た問題を蒸し返すことは受け入れられないという態度を取り、日韓関係は著しく悪化している。島田晴雄氏の解説とともに、この大きな問題の背景と現状を理解しよう。(全6話中第2話)
時間:11:36
収録日:2019/09/09
追加日:2019/10/16
カテゴリー:
≪全文≫

●徴用工補償問題に関しては戦後に一旦合意がなされていた


 元徴用工に対する個人補償問題について、日本政府は1965年当時の佐藤栄作政権と朴正煕(パク・チョンヒ)政権との間に結ばれた合意によって、完全に解決済みという立場を堅持しています。なぜなら、日韓請求権・経済協力協定の第二条には「請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決された」と明記されているからです。

 この協定は、1951年のサンフランシスコ講和条約を受けて、戦後日韓国交正常化に向けた14年間の交渉を経てようやく締結された日韓基本条約で明記されたものです。そして、日本は韓国に当時の額で8億ドルに上る経済援助を提供することとしたのです。

 8億ドルは当時の韓国の国家予算の2年分以上に相当する額になります。朴政権はこの資金を韓国経済発展のためのインフラ整備や鉄鋼産業など主要産業の支援のために活用し、その結果、「漢江(ハンがン)の奇跡」と呼ばれる目覚ましい経済成長を達成したことはよく知られています。高度経済成長へと進む韓国に対して日本企業も積極的に投資し、韓国の企業と日本企業の間には密接な相互補完関係が築かれました。この関係が、その後の日韓の深い産業連携に基づく経済発展を促進したことは周知の事実です。

 この間、国家と国家の合意で補償問題は解決済みとされていましたが、それとは別に個人の補償問題はしばしば提起されました。元徴用工の個人補償に関する訴訟は、該当する日本企業に対して提起されましたが、日本での裁判結果は、1965年の日韓合意の理解の下で、ことごとく原告敗訴に終わっています。一方、韓国では、文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足するまでは、歴代の政権で個人補償の問題は韓国国家が責任を持って対応するという理解が維持されました。

 例えば、革新系の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権でさえ、2005年請求権協定に伴う日本の3億ドルの無償協力に関し、「強制動員被害補償の問題解決の資金が包括的に勘案されている」との見解を表明しました。元徴用工の個人が日本企業に賠償を求める問題の解決の責任は、韓国政府が持つべきという認識です。ちなみに盧氏は文氏の師匠でもあります。


●韓国司法の新たな見解と韓国政府の態度の尖鋭化


 ところが2012年、韓国大法院は、徴用工の賠償請求を退けた高裁判決に関し、個人請求権は消滅していない、との初判断を示して審理...
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