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輸出規制強化と緩和の間で揺れ動く日韓経済関係

悪化する日韓関係(3)徴用工補償問題から輸出規制へ

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
徴用工補償問題が過熱していく中で、日本政府は輸出規制の強化という経済的な報復措置を取り、日韓関係は新たな局面を迎えた。両国政府ともに相手の外交上の非礼を非難するという、泥沼化の様相を呈している。WTOやアメリカなどの外部機関の仲裁も、関係改善に対して大きな効果を上げることはなかった。(全6話中第3話)
時間:09:52
収録日:2019/09/09
追加日:2019/10/23
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≪全文≫

●徴用工補償問題は輸出規制問題へと発展していく


 前回お伝えした状況を受けて、日本政府は2019年7月1日、韓国に対し、半導体製造などに必要なフッ化水素など3品目の輸出管理につき、「外国為替および外国貿易法」(外為法)に基づき規制を強化すると発表しました。対象となるのは、半導体の洗浄に使うフッ化水素、スマートフォンのディスプレーに使われるフッ化ポリイミド、半導体の基板に塗る感光剤のレジストの3品目です。

 韓国はこれまで輸出手続きを簡略化する優遇措置を受けられる27カ国の「ホワイト国」の一つとして認定されていました。今回の措置は韓国をこのホワイト国から外すということです。

 これら3品目は、半導体大国・韓国を狙い撃ちするには最も効果的と専門家の間では議論されています。いずれも日本が世界で7~9割近いシェアを持っており、サムソングループ、LGグループ、SKハイニックスなど韓国の国際企業はほぼ全量を日本から調達しています。

 しかし、韓国製の有機ELパネルやNAND型フラッシュメモリーではサムスンが4割の世界シェアを持っているため、それらの部品提供を受けている日本メーカーには影響が出る可能性もあります。つまり、対韓国輸出規制の強化はやがて世界のサプライチェーンを混乱させる恐れがあるのです。

 安倍晋三首相は、7月1日、読売新聞とのインタビューで「国と国との信頼関係の上に行ってきた措置を見直したということ」だと発言し、韓国との信頼関係が損なわれたため管理強化に踏み切ったとの考えを示しました。日本政府には、徴用工問題が日韓関係の根幹をゆるがす深刻な問題であることを韓国側に認識させるべきだとの考えが強い、ということを意味します。

 一方、韓国の成允模(ソン・ユンモ)産業通商資源相は、ソウルで「韓国大法院の判決に対する経済報復措置であり、WTO(世界貿易機関)提訴をはじめ対応措置を取っていく」と述べました。Financial Times紙(電子版)は「日本の自由貿易の偽善性を露呈するもの」と批判しました。ある外電は、安倍首相は政治問題に経済的武器を使うトランプ流の戦略を採用したようだが、結局損害は自らにも及ぶ、とコメントしました。

 この事案を担当する経済産業省は、輸出規制導入の理由について「不適切な事案が発生したから」としていますが、その内容は守秘義務として説明していません。また、世耕弘成経済産業相は、「輸出管理を適切に実施するため、運用上の対応をしている」としています。韓国側のWTO協定違反との批判にたいしては、日本側はGATT21条の「安全保障上の例外措置」であって違反ではない、と説明しています。

 一方、安倍首相は7月3日、日本記者クラブ主催の党首討論会で「1965年の日韓請求権協定で互いに請求権を放棄した。国と国の約束をたがえたらどうなるか、ということだ」「約束を守らないうえは今までの優遇措置は取らない」と述べました。最高責任者の見解では、輸出規制強化措置の理由は明らかというべきでしょう。

 日本政府は、対韓国輸出規制を二段階で実施する方針です。第一段階はリスト規制として対象品目を上記3品目に限定して7月4日に発動されましたが、第二段階は非リスト規制として8月末以降に発動されると見込まれています(※8月28日に発動)。そこでは韓国をホワイト国から除外し、食品や木材などを除く全品目のうち、経産省が指定する品目の全てが対象となります。

 7月18日、韓国外務省は、日本政府が1965年の日韓請求権協定に基づいて要請していた仲裁委員会の設置に応じない方針を正式に示しました。一方、日本政府による事実上の対抗措置と見られる半導体材料の輸出規制強化では、韓国がWTOに提訴すべく準備をしています。


●外部を巻き込む戦略は日韓両国どちらにとっても効果がなかった


 7月23、24日、WTOの一般理事会がジュネーブで行われました。韓国は日本の輸出規制強化問題をWTOの第一次審査の前段階である2国間協議のテーマとして取り上げるべく参加国の賛同を求めました。しかし、一般理事会は加盟164カ国・地域に共通する貿易課題を議論するのが主な目的なので、過熱する日韓の対立の解決になぜ一般理事会が使われるのかという意見もあり、この段階では参加国の理解は必ずしも得られませんでした。しかし、韓国の代表者は記者会見で、「反応がなかったことは韓国側の提案が支持された証拠だ」と述べました。

 注意すべきは、韓国はWTOを舞台にした貿易紛争ではかなりの実績があるということです。例えば、直近では、福島など東北8県の水産物に対する韓国の輸入禁止措置を、日本がWTOルール違反として訴えました。日本は一審では勝訴したにもかかわらず、2019年4月の最終審では逆転敗訴した苦い経験があります。

 この時、一審で敗訴した韓国が最終審で勝つべく入念な準備を...
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