●勝負を知るうえで奨励しているのは「七計」の比較
次の章句では、「七計」という概念が出てきます。
「之を校するに計を以てして、其の情を索む」ですが、ここで「校する」という表現があります。学校の「校」という字ですが、この「校」には、子どもの成長を柱に傷をつけて計り、それで背くらべをするという意味があります。学校というのは学んだ知識を比べる場所です。つまり、「校する」とは「比較する」という意味です。ここでは「七計」、七つの分野についての比較を奨励しています。そして、その次は「其の情を索む」ということで、ここでも情報探索が重要だと強調されています。
●「有道」、つまりどちらのトップが自国の大義を主張しているか
まず、国のトップである主のうち、「孰れか有道なる」について。この「有道」(いうだう)の読み方はいろいろありますが、私が一番重要だと思うのは、「その国の大綱、存在意義に精通している。そのために自分の国はある」「世界広しといえども、このような持ち味で、このような役割を果たしている国は他にない」という大義を世界に主張することがトップの仕事であるということです。そのことを正々堂々と行っている国はどちらか、優れているほうを比べようということなのです。
戦争を行う上で必須であるのは、終戦工作です。戦争では、勝っているときに終了すれば戦勝国になりますが、負けている、つまり劣勢のときに終われば敗戦国となります。したがって、ここで重要なのは、幕引きをあらかじめ決めておく必要があるということです。つまり、終戦工作があって初めて戦争が始まるのです。
具体的な例として、日露戦争の成功に着目して見ましょう。この場合には、開戦前にアメリカ大統領であったセオドア・ルーズベルトのハーバード時代の同級生を通して、終戦工作に関して念入りに詰めてから開戦となりました。結果として、影響力のある第三国のアメリカが終戦工作に動いたために、日本が勝っている間に終戦となりました。
逆に、感情に駆られて開戦した場合には、終戦工作も何もありません。終戦工作をする段階では、どちらの陣営が勝つのか分かりません。第三国としては勝ち戦に乗るのが基本となります。したがって、どちらが勝つかという際に、世論はどちらを支持するかまず見ます。重要なのは、どちらのトップが自国の大義を主張しているのか、つまりどちらの国を世論が支持しているのかという点です。この意味で、「孰れか有道」という問いは非常に重要なのです。
●「将」、つまり軍隊を率いるトップが有能かどうか
次に「将孰れか有能」とあります。「将」は将軍を指すので、つまり軍隊を率いるトップが有能かどうかということです。
会社の例では、主とはオーナー、つまり経営者を指し、将とは役員・部長クラスを指すといえるでしょう。まず、主に関しては「有道」かどうかという点を比べるのですが、将は「有能」、つまり能力があるかどうかで比較されます。ですので、将、つまり役員・部長クラスは能力を自分の一番の目標として掲げる必要があります。
●評価軸は「孰れか強き」、つまり強いかどうか
それから、次は「天地」、すなわち「天の時、地の利」が「孰れか得たる」とあります。これに関しては、「五事」の解説においてすでに申し上げました。次に、「法令孰れか行わるる」とあり、さらに「兵衆孰れか強き」と続きます。兵衆とは、会社ではミドル(中堅層)のことを指します。その上のクラスの将の場合には「有能」かどうかが評価軸ですが、ミドルの評価軸は「孰れか強き」、つまり強いかどうかとなります。
強さとは何かというと、困難を突破していく力です。ミドルは上にも行ける、下にも行けるという戦略的なポジションです。ミドルの在り方によってその軍隊の質は決定されてしまう側面もあります。「フローズンミドル」という言葉がはやりましたが、ミドルが行動しない組織は弱いのです。ですので、ミドルには、戦いだけではなく物事に勝つ強さが求められるのです。
●「士卒」、つまり一般社員は練度が重要
次には、「士卒孰れか練れたる」とあります。一般社員の場合は能力でも、強さでもなく、「練れたる」か、つまり練度が重要です。練度を表す例が行進です。いろいろな国が行進をするのは、自国の軍隊の練度を明示しているのです。当然、練度が高いほど組織としては充実をしています。ですので、一般社員は練度が問われるとここでは指摘しています。
●「賞罰」が公平無私に行われているかどうか
最後に「賞罰孰れか明かなる」。「賞罰」が明確な判断基準に基づき...