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「五事」は実際のビジネスの場でどのように応用できるのか

『孫子』を読む :計篇(3)計篇2~「五事」の「天・地・将・法」

田口佳史
東洋思想研究者
情報・テキスト
前回に引き続き、田口佳史氏が「戦わずして勝つ」という目標を達成するために必要な「五事」の残り4つに関して解説する。時節や環境の状況を考えろと訴える「天」と「地」、リーダーシップの重要性を強調する「将」、組織の編成と運用に関わる「法」に関して、具体的な説明が加えられる。これらの「五事」は、実際のビジネスの場でどのように応用できるだろうか。(全5話中第3話)
時間:12:14
収録日:2019/05/30
追加日:2019/12/10
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≪全文≫

●「五事」の残りは何を伝えようとしているのか。


 次に天ですが、「天の時、地の利」という言葉があります「天とは陰陽・寒暑・時制」とありますが、陰陽は時期の問題で、寒い時期か暖かい時期かという寒暑も重要ということです。加えて、時制とはその時の状況、タイミングを指します。つまり、自軍に利のあるタイミングかどうか。不利を承知で戦わなければいけないのか。こういったことが、「陰陽・寒暑・時制」の具体的な内容です。

 地というのは、「天の時、地の利」という言葉にもあるとおり、自分の軍から見た際に戦う戦地の「遠近・険易・広狭・死生」を考えろと説いています。ビジネスでいえば、新しい市場に出るという例で考えると分かりやすいかと思います。遠近とは、自分が今、主として取り組んでいる市場から、遠い市場なのか、近い市場なのか。また、険易とは、厳しい市場なのか、易しい市場なのか。広狭とは、現在取り組んでいる市場に比べて広いのか、狭いのか。最後に死生ですが、現在持っているノウハウが生きるのか、死ぬのか。そうしたことが指摘されています。

 孟子という人は「天の時、地の利、人の和」といっています。この指摘もなかなかのものです。天の時、地の利が自分にあっても、人の和がなければならないという孟子の指摘も非常に重視すべきです。それでは、『孫子』では人の和に関してどのように述べられているでしょうか。

 ここでは、「将」と書かれています。これは現場の長を指します。現場の長の在り方によって、戦略は大きく影響されるということです。具体的には「智・信・仁・勇・厳」の五つが挙げられています。智は知力です。次の信は、本当に信頼が置けるのか、部下からの信頼があるのか。さらに仁ですが、つまり本当の意味での愛情があるのかどうか。それから勇は勇気を指します。最後に厳ですが、これは自分に対しての厳しさがあるかどうかを指します。

 そして最後に「法」です。これはよくいわれる軍法です。「曲制・官道・主用」とは、そうした軍法がしっかり守られて組織が形成されているか。次に官道は、ポジションが備わっているか。さらに主用は、ちゃんとした指揮が行われているかということです。

 これはビジネスでいえば、論功行賞がきちんと行われているかということに関わってきます。成果を挙げたのに何の褒美もないのでは、意欲をなくします。そういう意味では、最後に論功行賞を公平にやるかどうかが重要になります。

 この段落の最後に「此の五者、将聞かざるは莫し。之を知る者は勝ち、知らざる者は勝たず」とあり、この五つが非常に重要だと主張しています。要するに、戦わずして勝つための具体的な方法として、この五事にのっとって準備を整えていくのが重要です。


●ビジネスの世界における「道」は天命、「天」は時代背景への理解を指す


 そのような意味で、自分が社会の中で有意な人物になろうというときにも、この五事をよりよく活用すると良いかと思います。少しその点についても触れておこうと思います。

 まず、最初に道に関して説明します。これは、何の目的を持って生きているのか、自分はいかなる天命の下、現在仕事に取り組んでいるのかを明確にすべきということです。特にサラリーマン諸氏に関しては、その点が曖昧な人が多いということを指摘しておきたいと思うのです。

 学校を卒業し、どこかに就職しなければならないので、さしたる目的もなく、どこか良い会社に、という観点で選択してしまう。要するに、天命というものを知らずに年齢を重ねてしまっている人がいるのです。「五十にして天命を知る」といいますが、50歳前後になり、自分の天命は何だったのか思い悩むこともあるかと思います。また、60歳になって定年で仕事を辞めて、これから独りで生きるとなった際に、こうした問題に直面することもあります。その意味では、とても重要なことです。

 次に、天の時とは、そのときの時代背景を指します。時代を味方につけていない人物は、魅力に欠けるものです。どのような仕事であろうとも、天の時、つまりしっかり明瞭に時代を味方につけていくことが重要なのです。現代は転換期ですので、転換期に有意な論法を用いる、転換期に即した指導や叙述をしていくということが必要になります。このように、時代をよく承知して、自分の能力を生かしていく必要があるのです。


●自分の実力を認識する「地」と自分の評価を得る「法」


 次に、地の利とは自分の実力を指します。これを「地力」といい、つまり自分の本当の能力は何かということです。この文脈で私は、ファースト能力とセカンド能力とい...
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