『孫子』を読む :計篇
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
戦略を考える上で重要な「五事」の一つ目「道」とは何か
第2話へ進む
「戦わずして勝つ」ことを唱える『孫子』が注目される理由
『孫子』を読む :計篇(1)「戦わずして勝つ」の意味
哲学と生き方
田口佳史(東洋思想研究家)
昨今、ビジネス界で『孫子』ブームが起こっている。古くより戦略論の名著として人々の注目を集めてきた『孫子』だが、今なぜビジネス戦略に用いられているのか。『孫子』の具体的な内容の解説に入る前に、戦略論でありながら「戦わずして勝つ」ことを重視する『孫子』の独創性とその全体構成について解説する。(全5話中第1話)
時間:9分27秒
収録日:2019年5月30日
追加日:2019年11月26日
カテゴリー:
≪全文≫

●なぜビジネススクールで『孫子』が重視されているのか


 今回は『孫子』の講義をいたします。

 本題に入る前に、2000年ごろに始まった『孫子』のブームに関して、少しご説明をさせていただきます。特にビジネススクールで『孫子』が非常に重視されているのですが、それはなぜでしょうか。その理由は、ビジネスの世界で用いられている戦略論にあります。この戦略論は、マーケティング戦略論に終始しているきらいがあるのですが、それでは本当の戦争戦略論はどこにあるのか、と徐々に関心が出てきます。つまり、マーケティング戦略論の前提としての戦争戦略論をみんなが欲しているのだと思うのです。

 この場合、最初に手を出すのは、クラウゼヴィッツの『戦争論』が多いでしょう。しかし、クラウゼヴィッツの『戦争論』を読んでみても、何か物足らないと感じる。より根源的な戦略論はないかということで、自ずと『孫子』の戦略論にいきつくということになります。

 われわれ漢籍を研究する人間のあいだでは、『孫子』『呉子』『六韜』『三略』の「孫呉韜略」と呼ばれる4篇については、最低限読了することになっております。『孫子』と『呉子』は非常に似通ったもので、本質的戦略論としての思想・哲学がしっかり基礎づけられています。さらに具体的な戦法も詳しく明示されています。


●「戦わずして勝つ」ことを訴える『孫子』のユニークさ


 近代戦争戦略論で有名なリデル=ハートというイギリス人がいます。リデル=ハートという人は『孫子』読みで有名で、西洋世界で最も読み込んだ人ではないかと思います。それゆえ、リデル=ハートの機甲戦略論などにも『孫子』は反映されています。また、海洋戦略論という分野では、マハンという人が有名ですが、マハンの海洋戦略論にも『孫子』の影響が色濃く見られると私は思います。

 このように、幅広く影響を及ぼしている『孫子』の原文を読んでみると、戦略なるものの本質がよく分かります。『孫子』の主張の最も重要な点は、周知の通り「戦わずして勝つ」ということです。戦略論でありながら「戦わずして勝つ」という主張は、論法として矛盾しているという意見を聞くことも多いのです。しかし、決してそうではなく、むしろ戦いなどしなくても勝てるほどの守備を万端整えることなくして、国家の安定はないといっているのです。

 そういう意味では、この「戦わず...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
おもしろき『法華経』の世界(1)法華経はSFだ!
「法華経はSFだ!」というナラティブの神秘的体験
鎌田東二
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留
「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(1)心理学研究と日本の幸福度
実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
哲学から考える日本の課題~正しさとは何か(1)言葉の正しさとは
「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ
中島隆博
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担
日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い
養田功一郎
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
「アカデメイア」から考える学びの意義(2)プラトンの学園アカデメイア
プラトン「アカデメイア」の本質は自由な議論と哲学的探究
納富信留
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために
百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために
門田隆将
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子