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鼻の穴が1つしかないハクジラの「エコロケーション」とは

「海の哺乳類」の生き残り作戦(2)収斂とエコロケーション

田島木綿子
国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹
情報・テキスト
今回はアザラシやアシカなどの鰭脚類と、ハクジラをはじめとする鯨類について解説する。アシカは前肢を使って泳ぎ、アザラシは後肢を使って泳ぐということや、ハクジラは鼻の穴が1つしかないなど、それぞれの特徴を説明するなかで、重要キーワードとして挙げたのが「収斂進化」と「エコロケーション」だ。それらは一体どんな特徴なのか。(全5話中第2話)
時間:10:16
収録日:2019/07/05
追加日:2020/03/24
カテゴリー:
≪全文≫

●日本の周囲には少ないが、海牛類より種類の多い鰭脚類


 鰭脚類は、ひれあしのある、いわゆるアザラシ、アシカですが、海牛類よりたくさんの種類があって、大体30種類くらい世界中にいます。残念ながらこのなかでたった7種しか日本の周囲にはいないので、鰭脚類が好きだったり研究したいという人にとって日本はあまりいい場所ではありません。ただ、それでも7種はいるということです。

 進化の図を見ると、やはり海牛類や鯨類よりはちょっと早い、まだ若い地層から出ているので、もしかしたら海牛類や鯨類よりは後に進化したかもしれないということが、この図から分かります。


●アザラシ科とアシカ科の違い


 鰭脚類はアシカ科とアザラシ科とセイウチ科と3ついるのですが、それぞれ特徴があるので、簡単に説明します。

 まずアザラシ科です。アザラシ科を見るときにまず何を見たらいいかと言うと、泳ぎ方なのです。アザラシ科は後肢で泳ぐと覚えてください。後肢を左右に振って泳ぐのが、彼らはとても得意なのです。

 一方のアシカ科はどうやって泳ぐかというと、胸ビレを羽ばたくようにして泳きます。なので、アシカ科は前肢、アザラシ科は後肢というように覚えてください。

 上はアザラシ科とアシカ科の違いを見る上で非常に分かりやすい図なので、こちらを使って説明します。

 まず、耳介のある、なしという動物が上と下にいるとします。上の動物はヒゲが平坦である。または、下の動物はちょっとぼこぼこシタヒゲを持っている。こういう動物がそれぞれいるとします。次に上は鼻面が長く、一方、下は鼻面が短い。また、陸上で後肢を腹側の下に曲げることができる種類がいるけれども、下は曲げることができない種類がいる。さらに上は筋肉内精巣、下は腹腔内精巣と若干の違いがある動物がいるということになります。上は先ほどお話ししたように前肢を使って泳ぐ種類で、下は後肢を使って泳ぐ動物がいるとします。

 そうすると、それぞれの動物はどういうものかというと、上がアシカ科になって下がアザラシ科となります。ということで、それぞれの項目をアシカ科とアザラシ科で比較して知っていただくと、分かりやすくなります。


●セイウチが1種しか現存していない理由


 これを踏まえてセイウチを見てみましょう。

 実はセイウチは1種類しか世界中にはいないのですが、アザラシ科とアシカ科両方の特徴を持つと言われています。少し説明しますと、セイウチは後肢は下に曲げることができるので、これはアシカ科と同じ特徴です。でも耳介はありません。そうするとアザラシ科と同じになります。しかし、後肢のストロークで泳ぎます。後肢を曲げたのにもかかわらずアザラシと同じように左右に振る泳ぎ方をするので、セイウチはアシカ科とアザラシ科の両方のいいところどりをしているという種類なのです。

 でも、それにもかかわらず今世界中で1種しかいないのです。なぜかというと、それは先ほどの海牛類と同じで、食べ物に多様性を見いだせなかったからです。実は化石種のなかでセイウチは10種類以上発見されているのです。そうしたなか、どんどん減って現在は1種類しか生存していないので、やはり研究者たちもなぜなのかと考えるわけです。

 彼らの食べ物ですが、実は海底に埋まっている底生の動物がいて、その総称を「ベントス」とおうのですが、それしか食べないのです。他にも泳いでいる魚をもっとパクパク食べれば、いろいろなところに繁殖して繁栄できたのですが、海底のものしか食べないということで、結局エサに多様性を見いだせなかったから、どんどん絶滅してしまって今は1種しかいないと言われています。ちなみに、セイウチを研究している方は非常に多くいます。


●クジラと収斂進化


 ここでクジラの話になりますが、クジラは大体海牛類と同じように、始新世の最初の頃に分離しました。前回も少しお話ししたように、最近は分子生物学的、または形態の知見から偶蹄類に近い、特にカバと近いといわれているので、いまでは「鯨偶蹄目」と改名されています。実はこの発見をしたのは日本人です。これは「nature」に載った論文なのですが、当時この論文を拝見して、日本人がこういうところでもがんばっているのをわれわれもとてもうれしく思いました。

 面白いのは、これは世界でも研究の面で言われていることで「収斂」という言葉を耳にしたことがあるかと思いますが、それがクジラ目について説明されることもよくあるということです。...
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