●「哺乳」のための戦略-表情筋
今日は、海の哺乳類を含めた哺乳類について、彼らが「産む、育てる」についてどのような生き残り作戦を企ててきたか、または生き残ってきたかということを紹介したいと思います。
海の哺乳類の哺乳ですが、実際に哺乳とはどういうことかと考えたときに、まずお母さん側はお乳を出すための乳腺を持っている、その乳腺からお乳が実際に出る、そして、そのお乳を出す乳頭がある、ということは皆さん、なんとなく想像できると思います。そこで、今日知っていただきたいのは、実は子ども側にもちゃんとした戦略があるということです。
特に人間でいうと、「表情筋」というものについてよく耳にするのは、表情をつくるとかリフトアップのために表情筋を鍛えましょうとかというように、表情をつくるための筋肉だと思っている人が多いということです。
しかし、実はそれは、哺乳類のなかでは本来の機能ではないのです。表情筋があるということは、ほおを使ってお乳をチュウチュウ吸うことができる、つまり口をチュウチュウするようにできるのは、表情筋があるからなのです。ですから、われわれも皆さんもみんなそうですが、どの哺乳類でも生まれたての子どもはお母さんのおっぱいを飲むために、口でチュウチュウできるというのが、表情筋の本来の機能です。ということで、お母さん側も子ども側も哺乳類である機能を、生まれたときからしっかりと持っているということをぜひ知ってください。
私が担当しているのが海の哺乳類なのですが、そのなかでクジラたちはやはり海のなかでお母さんのおっぱいを飲まなければいけないので、抱っこして飲ませてもらうことはできません。そのため、もう少し特殊な形質を彼らは獲得していて、舌のところにフリンジがあるのです。そうすると、フリンジがあることで乳頭に舌が巻きつきやすくなって、お母さんの乳を泳ぎながら飲むということを獲得しました。
ということで、生活環境が変わると少し特殊な形質を持っている動物もいるということを、ぜひ知ってください。
●哺乳類の繁栄の鍵は「胎生」にあり
次の話なのですが、うまく育てるなかで哺乳類が獲得した形質としては、「胎生」といって、いわゆるお母さんのお腹のなかに子宮をつくって産むということがあります。実は子宮をつくったこと自体が、哺乳類がここまで繁栄できた理由の1つだ、と言っている方もいます。
なぜかというと、皆さんが大好きな恐竜時代には、実は哺乳類は本当に小さいネズミくらいのサイズの動物だったそうです。もちろん、この時代には恐竜が圧倒的なニッチ(生態的地位)を獲得していたのですが、ただ、恐竜たちの大変なところは、子どもを産むとお母さんはそこから離れるということでした。お母さんが子どもを産んでどこかに行ってしまうと、子どもは子どもだけでいなければいけない。いわゆる卵の状態でずっとお母さんと離れているわけです。
哺乳類の特徴は、お母さんの体のなかに子どもを宿せるので、お母さんと一緒に移動ができる、お母さんも食べながらでも子どもは成長できるというように、一体化できたということです。実際、恐竜と哺乳類とでどちらが良かったかというと、その後の歴史を考えてみると、どうやらお母さんのお腹のなかで子どもを宿した哺乳類のほうが恐竜よりも(生き残りの)成功率が高いということで、それがここまで哺乳類が繁栄できたというのが理由の1つではないか、と言っている方もいます。そういう意味で子宮ができたというのはすごいことかな、と思うときもあります。
●子宮には5つのタイプがある
実はその子宮には5つのタイプがあり、いろいろな戦略が含まれています。人間の場合は単子宮といって、子宮の着床、いわゆる妊娠できる場所が1つしかありませんが、哺乳類には2つあるとか、2つだけれどもうちょっと複雑であるとか、もっと複雑なものとか、いろいろあり、こういうところでも生き残り作戦が含まれています。
スライドをよく見てください。例えば、重複子宮はウサギ類と齧歯(げっし)類、またはわれわれのような単子宮は霊長類と、コウモリが一緒です。ということは、系統に反映されていないということなのです。
そうすると、もしかしたらこれは言い過ぎかもしれませんが、2話目でお話しした収斂進化の1つかもしれないのです。コウモリとわれわれ人間のなかには、単子宮であることがお互いいいことがあるということでそれを選択した可能性があり、そこにもしかしたらわれわれの知らない秘密が隠されているかもしれません。こういう見方をすると、5...