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保健所が崩れるか否かが、感染爆発の大きな岐路

新型コロナウイルスの克服(4)保健所こそ陰のヒーロー

橋本英樹
東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 保険社会行動学分野 教授
情報・テキスト
日本において感染者数がある程度抑えられている要因の1つに、保健所の働きがある。保健所は感染者の情報や感染経路を逐一把握し、感染拡大防止に大きく貢献している。よって、保健所という機能をいかに保つかが、医療崩壊を防ぐためにも非常に重要なポイントとなる。(全5話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:01
収録日:2020/03/27
追加日:2020/04/01
≪全文≫
●保健所のシステムが感染拡大を抑えた

橋本 保健所のシステムがある程度働いていたので、地域内の感染者を把握し、隔離したりして感染を抑えることができました。推計だけでやるのであれば、病院に飛び込み、陽性患者が出たという情報を吸い上げれば良いのです。こうした計算に関しては世界中に大御所がいます。アメリカのジョンスホプキンズ大学や、イギリスのロンドン大学衛生・熱帯医学大学院(London School of Hygiene & Tropical Medicine)のグループが、世界最先端の技術と莫大な数の研究者により、ものすごいスピードで計算を行っているのです。それに対して日本では、少数の精鋭たちが厚労省に立てこもるなどして行っています。なかでも西浦博先生は、よく体力が持つな、という感じです。

橋本 北海道大学の西浦先生ですね。

橋本 あの方はもともと体力がある人ですが、そろそろ心配になっています。それくらい彼は頑張っています。少数精鋭で頑張っているのです。しかし、そうした人たちが出した数字に基づいて、末端が動かなければなりません。その数字を現場に還元し、動かなければならないのです。ジョンスホプキンズ大学の場合、計算はできますが、元(現場)に戻せません。そのための組織がないからです。日本には、保健所があります。


●保健所には何人もの陰のヒーローがいる

―― 「戻す」とは具体的にはどういうことでしょうか。

橋本 具体的には、人々の行動に対して注意を呼びかけているのです。実際に、電話をかけるなど個人に働きかけてくれています。

―― なるほど。感染された方に、ということですね。

橋本 そうです。保健師さんたちがそのことを1人1人に対してやっているのです。

―― 確かにその仕組みはすごいですね。

橋本 これがあるのとないのとで、感染が爆発して悲惨になるか、ゆるゆるとしたペースにとどまるかが決まります。ですから、彼らは陰のヒーローです。決して高級なワクチンをつくった研究者や、高度な医療を行う医師がヒーローなのではありません。実は、保健所には何人もの陰のヒーローがいて、今の体制が動いています。


●保健所は日本独自のシステムである

―― なるほど。これも基礎的な質問になってしまいますが、保健所は、世界にあまりない日本独特のものなのでしょうか。

橋本 日本のような形で機能している国は少ないと思います。「public health center」と呼ばれるものはあるのですが、これはどちらかというと公的な医療提供機関のことです。

―― 病院とあまり変わらないということですね。

橋本 そうです。日本のように、医療的な要素を少しだけにして、あくまで集団の健康に寄与することに特化して責任を持ち、しかも市区町村のような末端にまで組織化されているのは、かなり特徴的です。

―― それは非常に面白い点ですね。


●実は保健所はアメリカが考えたシステムで、戦後の日本に導入された

橋本 これは意外と知られていません。しかし実は、保健所はアメリカで考えられたものなのです。

―― その仕組み自体が、でしょうか。

橋本 そうです。しかも実は、GHQが導入したのです。

―― それは民生局が入れたということですね。

橋本 戦後の荒廃した日本の状況から、地域の健康を通じて人々の幸福を生み出すために、当時の公衆衛生学の最先端であったアメリカが導入したシステムが、保健所なのです。日本には普及しましたが、アメリカには普及し損ねました。

―― よくあるパターンですね。

橋本 よくあるパターンです。ある意味で、トヨタ方式のように、最初に考えたのはアメリカ人でしたが、それを導入したのは日本人だったというのと似たようなケースです。今回、日本がラッキーだったのは、先ほどいったように、人々の移動が少なかった、移民が少なかったことに加え、こうした公衆衛生システムを末端まで持っていたということが大きかったのです。


●保健所の機能をいかに保つかが、今後の状況を占う鍵になる

橋本 逆にいうと、この機能をいかに保つかが本当に重要です。すでに限界寸前でパンパンな状態です。これが崩れてしまえば、イタリアと同じような状況になります。今私が最も心配しているのは、保健所が崩れることです。それはもちろん医療崩壊にもつながるのですが、保健所が持つか持たないかが、感染拡大のピークが激しくなるか、なだらかになるかの分かれ道です。

―― まさに現場の瀬戸際なのですね。先ほど先生は「パンパンな状態」とおっしゃいましたが、状況としては、それほどハードワークが続いているということなのでしょうか。

橋本 ずっと続いています。少人数でずっと取り組んでいるからです。全国で数千人です。

―― 数千人ですか。

橋本 数万人ではありません。


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